二人の微エロな絡みで5題
4.鎖骨を指でなぞる
ソフィーは固まっていた。 「……ソフィー……?」 カルシファーがおずおずと話しかけても、それでも彼女は延々と立ち尽くす。 ―――それくらい、衝撃だった。 「あっ、ソフィー」 明るいハウルの声がして、とんとんと軽やかな階段を下りる音がした。 「見たの、それ。いいだろ、今年の流行なんだってさ。それ着て海行こうよ、海」 ハウルは固まっているソフィーの前に立ってにこやかに話を続ける。 「似合うと思うなぁ。ソフィーってスレンダーに見えて結構胸あるしさ」 「……ハウルが、選んだのこれ……?」 ようやく聞こえてきたソフィーの声は、とても低い。 そのあまりの低さにカルシファーがぎょっとしているのにも、上機嫌なハウルはまったく気がつかなかった。 「そう! 一目見てソフィーに着て欲しいって思ったんだ!」 ぶちっと何処かで血管が切れる音がしたような気がした。 「こんなの着られる訳ないでしょおおおおおおっ!!!!」 ソフィーの罵声が城内に響き渡った。 ハウルが買ってきた服がテーブルの上に放り出されたままになっている。 ソフィーは先ほど怒って部屋に帰ってしまったため、ここにいるのはハウルとカルシファーだけだった。 「……せっかく似合うと思ったんだけどなぁ」 「ソフィーのいつもの服を考えてみろよ……」 ソフィーが着ている服を思い出し、そして目の前にある服を見る。 「……こっちの方が似合うと思うけどな」 「あれだけ完全に布で覆われてる服を着てるソフィーが、いきなりこんな露出度の高い服を着ると思うのかよ……」 テーブルの上に放り出された服は、確かに露出度が高かった。 上半身は胸の部分はきちんと覆われているものの、後は何処にも布はなく、完全にウエストラインは丸見えになる。 下半身の方は一応スカートにはなっているが、透ける布で出来ているためにこれまたほぼ丸見え状態。腰の部分は一応見えないように厚い布で覆われているが、太股の部分は剥き出しになっているために動きようによっては中が見えてしまうかもしれないという危機感がある。 「これを着たら妖精のように見えて綺麗だと思うんだけどなぁ……」 「絶対、男の目は釘付けになるな」 「………」 「これだけ露出が高い服を着るのは水商売の女くらいだぜ? その上ソフィーは美人なんだから、絶対男が黙ってないぞ〜」 「………手を出してきたら丸焼きにしてやるさ」 そういう可能性を考えていなかったらしいハウルは、そう言いつつもだんだんと不安になってきたのか表情が強ばってくる。 後もう一押し。 そう思いつつカルシファーは言葉を続けた。 「せめて、家のなかだけで着る……にしておいたら、ソフィーも受け取ってくれるんじゃないか?」 「………」 黙って服を見ていたハウルは、やがてこくんと頷いた。 「……そうする」 これでソフィーの機嫌も治るだろう。 カルシファーはようやく安堵の息をつくことが出来たのだった。 夜。 皆が寝静まったなか、ソフィーはあのハウルから贈られた服を手にしてリビングの椅子に座っていた。 晩ご飯の時もその話題は一切触れられず、服はソファの背に隠すようにかけられていたので、ソフィーも敢えて触れなかったのだが。 ―――こうして改めてみると、かなりきわどくてセクシーな服だと思う。 「……何でこんな服選んだのかしらね……」 独り言のような、暖炉で話を聞いているはずのカルシファーに聞こえるような、そんな微妙なニュアンスで呟いてみる。 だがカルシファーは話題には乗らないと決めたのか、薪の上でもぞもぞと動くだけだった。 「まだ起きてたの?」 はっと振り返る。 「ハウル……」 ハウルがソフィーの後ろに立っていた。 「………」 「………」 互いに気まずくて黙り込んでしまう。 そうして暫く黙っていた二人だったが――やがてハウルが口を開いた。 「その服……そんなにソフィーが嫌がると思わなかったんだ。……ごめん」 静かな謝罪の言葉に、ソフィーも素直な気持ちで口を開いた。 「……びっくりしたのよ。まさか、こんな服を着てって言われるなんて思わなくて」 「……ソフィーに似合うと思ったんだけど、カルシファーに言われたんだ。……ソフィーにそんな服を着せたら他の男の視線を釘付けにするぞ、って……」 ハウルの拗ねたような物言いにソフィーは笑みを浮かべた。 「そんな事はないと思うけど、でも視線を浴びるのはちょっと嫌かなぁ……」 ソフィーが微笑んだことで安堵したのか、ハウルの表情もやわらかくなる。 「今だけ、着てみるのって……だめかな?」 そんな事を言い出したハウルにソフィーはえっと声をあげた。 「い……今?」 「みんなの前で着ろって言わないからさ、今だけ」 そう言われてソフィーは考え込んでしまった。 この服を着るのは恥ずかしいことこの上ない。 だが、せっかく買ってきた服をそのままお蔵入りにするのはもったいない。 ――ハウルにだけ見せるなら、いいかもしれない。 そこまで考えてソフィーは小さく頷いた。 「……ハウルにだけよ?」 「ありがとう!」 満面の笑みになったハウルを見て一瞬「早まったかも」と思うが、時既に遅し。 ソフィーは服を手に取りため息をついた。 改めて着替えてみると。 (これって裸同然じゃないの……!! こんなの着て外を歩けって言ってたわけ!?) ハウルの前に立つのも恥ずかしいが、約束をしてしまった手前仕方がない。 ソフィーはそぅっと扉を開けて、リビングへと出た。 「あ、ソフィー……」 顔を赤らめて姿を見せたソフィーを見て、ハウルは動きを止めてしまった。 じっと凝視しているのを見ると恥ずかしくて仕方がない。 「……早く着替えたいから、見るなら早く見てくれるかしら……」 「……いや……こんなに似合うなんて」 「女性がこんな格好したら誰だってそうなるわよ……」 「ううん、ソフィーだから似合ってるんだよ」 ゆっくりと近より、肩に手を置く。 ぴくり、とソフィーの体が震えたが逃げようとはしない。 それに勇気を得て、ハウルはゆっくりと指を滑らせた。 首筋から鎖骨へと滑らせ、筋に沿って撫でるとさすがにソフィーが身を震わせた。 「ハウル、くすぐったいって……」 「ん……」 聞いているのか聞いていないのか微妙な返事を返すものの、ハウルがやめる様子はない。 やがてその指は首筋を通って顎、唇へと触れた。 やわらかい唇を優しく撫でる指の感触が気持ちいい。 「ハウル……」 ハウルの顔が近づいてくる。 次の瞬間には唇はもっとやわらかいそれに塞がれていた。 ―――ふと目を覚ますと、光が隙間から漏れてきているのが見えた。 伸びをしようとして―――隣から感じる気配に気がつき、ハウルは動きを止めた。 ソフィーがすーすーと気持ち良さそうな寝息をたてている。 ぐっすりと眠り込んでいる様子のソフィーを起こさないよう、ゆっくりと身を起こしてハウルはベッドから下りた。 床に視線を落として―――自分が買ったあの服が散乱しているのが目に入ってくる。 「……まずいなぁ……」 確かに露出が高い分、刺激的なのは間違いない。 だがそれよりも何よりも、その服を着て恥じらうソフィーの姿の方がハウルにとってはもの凄く刺激的だった。 「……まずい」 もう一度その言葉を繰り返し、自分の髪に指を差し入れてかき混ぜる。 「歯止めが効かなくなるんだよな……」 だが、たまになら。 ――たまになら、いいよね? ソフィーが知ったら「絶対に嫌!」と言いそうな事を思い、ハウルは笑みを浮かべたのだった。 END |
何故お題がいきなし?と思ったかもしれませんが、お題の1と5はせんちひ小説の方にあります。更にエロい雰囲気になりそうなのはハウルの方で書く方が書きやすかったんでこのお題はこちらで。いや……元々の雰囲気がちょっとエロちっくじゃないですか?キスシーンとかあるし、主人公は大人だし。いや健全な雰囲気の中での話ではありますが。 男性は目からの刺激に弱く、女性は雰囲気に弱いという話を聞いたことがありますが、もろに刺激されてます、ハウルさん。そしてソフィーは雰囲気に流された……と。 いやでもソフィーってかなりスタイル良いと思うんですがどうでしょうねぇ?? |