Nightmare
2005年カウント1キリ番作品
「――――!!」 ソフィーはがばっと起きあがった。 「夢……」 まだ動悸の収まらない胸を押さえて辺りを見回す。 静かな、静かな夜。 だがいつまでたっても動悸は収まらなかった。 「………」 そっと肩掛けを羽織り、手探りでランプを手にとって灯りを入れる。 そうして自分の部屋を出た。 静かに出たつもりだったが、きい…と扉が音をたて、その音が思った以上にリビングに響き渡ってしまった。 「……んん…そふぃー…?」 カルシファーが眠そうな声をあげる。 「…ごめんなさい。寝てていいのよ、カルシファー」 むくりと起きあがって、カルシファーはいつの間にか少なくなっていた薪を手にとって自分の前に置いた。 「どうした? 夜明けにゃまだ早いぜ」 「ちょっと目が覚めただけだから……」 そう言いつつソフィーは歩いていく。 その先には―――ハウルの部屋があった。 「………?」 カルシファーが不思議そうに見つめる中、ソフィーはきい…とハウルの部屋の扉を開けた。 「…………」 ランプの明かりに照らされて鉱石がキラキラと反射している。 中央にあるベッドでは、ハウルがぐっすりと眠っているようだった。 そうっと近づいても起きる様子はない。 「…………」 毛布にくるまるようにして眠り続けているハウルは安らかな寝息をたてている。 それを確認してからソフィーは部屋を出た。 ぱたん…と扉が閉じる。 真っ暗になった部屋のなか、ハウルは目を開けてそっと身を起こした。 「……ソフィー…」 「どうかしたのか?」 戻って来たソフィーにカルシファーが声をかける。 「ううん、何でもないの。お休みなさいね、カルシファー」 それだけ言ってソフィーは自分の部屋へと戻っていく。 それを見送ってカルシファーが溜息をつく。 「……何でもない訳ないだろうになぁ……」 「…ソフィー、何か言っていた?」 いつの間にかハウルが立っていた。 「起きてたのか」 「まぁね…思い詰めたような顔をしていたのが気になって」 「おいらにも何にも言わないんだ……」 ハウルはじっとソフィーの部屋の方を見つめていた。 朝。 リビングには美味しい香りが漂っている。 「さぁ、出来たわよ!」 ソフィーがお茶を置くと、マルクルが声をあげた。 「わーい!」 ハウル、マルクル、おばあさんが定位置についたのを確認してから、ソフィーは自分の椅子に座った。 「うまし糧を」 挨拶をしてからまず朝食に飛びついたのはマルクルだった。 「マルクル、焦らなくても逃げやしないわよ」 目の前にあるサラダを口に運んでいたソフィーは、ふとハウルの視線が自分に向いているのに気がついて視線を向けた。 「なぁに? ハウル」 「いや…」 言葉を濁して、ハウルは料理に箸をつけた。 夜はあっという間にやってくる。 「……まだ寝ないのか?」 カルシファーの声にはっとソフィーは顔をあげた。 ちょっとだけするつもりの編み物がもう随分と進んでいる。 「マルクルもハウルもばーちゃんもヒンも寝ちまったぜ」 「うん……そうね」 自分がいつまでもここにいると、カルシファーが眠れない。 「もう寝るわ。お休みなさい」 「うん」 立ち上がったソフィーは、自分の部屋へと歩いていく。 ぱたんと扉を閉めてから、ソフィーは大きな溜息をついた。 「……眠りたくない、な…」 だが眠らない訳にはいかない。 ソフィーは緩慢な動きでネグリジェに着替えると、ベッドへと潜り込んだ。 「――今夜は、ちゃんと眠れますように……」 それから暫くして。 ハウルがカルシファーのところに姿を現した。 「ソフィーはもう寝た?」 「ああ、今戻ってったぜ。…何か、あんまり眠りたくなさそうな感じだったけど」 ハウルはソフィーの部屋の方へと歩いていく。 そうっと扉を開けて―――ハウルは中へと入り込んだ。 ベッドでソフィーは眠っていた。 「……ソフィー?」 だが様子がおかしい。 うなされている―――辛そうな表情で眠るソフィーに、ハウルは眉をひそめた。 「ソフィー」 彼女の肩を掴んで揺さぶる。 「起きて、ソフィー。ソフィー…!」 何度か呼びかけると、はっとソフィーは目を開けた。 「……目が覚めた?」 自分の顔を凝視してくるソフィーを不思議に思いながら、ハウルは出来るだけ優しく声をかける。 「……ハウル…」 ソフィーが手を伸ばして来て、ハウルの頬に当てる。 「ハウル……生きてるのよね……傍に、いるよね……」 「…ソフィー?」 「傍にいて…ハウル……!」 ソフィーの瞳から涙がこぼれ落ちる。 泣き出したソフィーをハウルはぎゅうと抱きしめた。 「僕はここにいるよ……だから泣かないで…」 ハウルが強く抱きしめているうち、ソフィーのすすり泣く声がだんだんと小さくなっていく。 「―――ソフィー…?」 ハウルが覗き込むとソフィーは先ほどよりも安らかな寝息をたてていた。 何か怖い夢を見たのだろうか。 ベッドに腰を下ろしてソフィーを抱きしめ、その髪にそっと口づけを落とす。 「僕は傍にいる―――何物からも君を守るから……」 ソフィーを抱きしめる腕に力を込めて、ハウルは呟いた。 日の光が、眩しい。 顔に当たる光に気がついて、ソフィーは目を開けた。 「目がさめた?」 ―――目の前にハウルの顔がある。 「……え?」 「おはよう」 事態が良く飲み込めずきょとんとしているソフィーを見て、ハウルは笑い出した。 「な、何でハウルがいるの……?」 「良く寝てるのかなと思ってちょっと覗いたら、眠りながら泣いてたから」 気になって自分の部屋に戻れなかった。 ハウルの言葉を聞いていたソフィーの頬がみるみる赤くなっていく。 「あ…あたし……変なこと、口走ってなかった……?」 ――傍にいてとか色々言われたが、ハウルにとっては嬉しい言葉であるから変なことではないだろう。 「いいや、特には。―――何か夢でも見た?」 すっとソフィーの瞳が陰った。 「……口にしたら少しはスッキリするよ?」 「……うん…」 ソフィーはぽつりぽつりと、昨日見た夢を語り出した。 「あの…ハウルが黒い鳥になって何処かへ行ってしまうの。前にもそんな夢を見たことがあったんだけど……凄く怖い顔をしていて。行かないでって言っても全然取り合ってくれなくって……それならせめて一緒に連れていって欲しいって言っても、全然駄目で……」 「…………」 「でも昨日はその後のこと、覚えてないの。……もしかしてハウルがずっと抱いててくれた?」 不思議そうに見上げてくるソフィーをハウルは強く抱きしめた。 「ハウル…?」 「僕はここにいるから……」 囁いてくるハウルにソフィーは微笑みを浮かべた。 「分かってる。あれは夢だもの。―――でも、傍にいてくれて嬉しかった」 腕を弛めたハウルがそっと唇を重ねてくる。 それをソフィーは目を閉じて受け入れた。 ―――あれからも時々夢を見る。 だが前ほどにうなされる事はなくなった。 (―――もしかして、キスの時にまじないをかけてくれたのかしら?) うなされていた時に何を口走ったのかは気になるところだが、ハウルはどうしても教えてくれなかった。 (いつか、絶対に聞きだしてやるんだから) そう思うとなんだか心が軽くなってくる。 「ソフィー! ソフィー、こっちに来てー!」 ハウルが呼ぶ声が聞こえる。 「はーい、今行くわ!!」 そう返事を返して、ソフィーはリビングへ向けて歩き出した。 END |
お正月って見るテレビもあんまりなくて、結構早く書き上がってしまいました。悪夢は映画でも見てますよね。ハウルの部屋が洞窟になっちゃってるシーンです。あの時は結構事態も切迫していたのでそれどころじゃなかったでしょうが、全て終わって平和になってから悪夢を見ると結構後々まで尾を引いたりします。朝起きてもドキドキしてたりって事がありませんか? |