オレンジブロッサム

440000キリ番作品







ソフィーはあの花畑を歩いていた。

「あ、この花もいいかな……いつも来てくれるおばあちゃんに似合うかも」

良くお店に来てくれるお客さんの顔を思い浮かべながら歩いていく。

ハウルの魔法によっていつもこの花畑は花で満開。

ソフィーの店はどんな季節でも花がある店として街では有名になりつつあった。

「うーん……」

ソフィーはぴたりと足を止め、辺りを見回した。

「オレンジ色ってなかなかないものね……」

かごいっぱいに花をつんだのだが、ピンクや黄色、白の花が多くオレンジ色の花はなかなか見あたらない。

「いつも来てくれるあの子に似合うと思うんだけどな……」

母親と一緒に来るポニーテールの女の子がオレンジ色が好きなのか、そういう色合いのワンピースを良く着ている。

今度その子が来た時に小さなブーケにして渡してあげたいと思っているソフィーだったのだが。

「……もうちょっと向こうまで行ってみようかな」

いつもは歩いて10分くらいで戻れる場所までしか行かないのだが、今日はどうしてもその色の花が欲しかった。

(……あの子が来そうな予感がするのよね)

ソフィーはそんな事を思いながら、花畑の更に先へと行く為に足を踏み出した。







「ソフィー」

あれこれ花を探してうろうろしていたソフィーは、背後から話しかけられて小さく悲鳴をあげた。

「ごめん、驚かせちゃった?」

ハウルが白いシャツに黒いズボンという出で立ちで立っている。

上着を着込んでいない処を見ると、今日は特に外出の予定はないらしい。

「ああ……ハウル。ごめんなさい、もうそんなに時間経ってる?」

「いや、そうでもないけど……いつも帰る時間を過ぎてるのは確かだね」

そう言いつつハウルはソフィーのかごの中を覗き込んだ。

かごの中は花でいっぱいになっている。

「……何か探しているのかい?」

「そうね……探しているといえばそうなるかしら」

微妙な物言いにハウルがきょとんとした顔になる。

ソフィーはくすっと笑みを漏らし、言葉を繋げた。

「いつも来る女の子に似合うお花を探していたの。オレンジ色の花が欲しいんだけど……なかなかないなぁって思って」

「オレンジ色の花ね……今の時期はないかもしれないな」

ハウルはソフィーがつんだ花をじっと見つめた。

「そうなんだ……季節を問わずこの花畑には花が咲いてるものとばっかり思ってたわ」

「そうでもないよ? 旬の花しか咲いてないし……」

ハウルはそっとソフィーの腕からかごを抜き取った。

「どうしたの?」

「オレンジ色の花が欲しいんだろ?」

ハウルの手が小さな花びらを咲かせている花に触れる。

白の花弁を揺らしていた花の色が、見る間にオレンジ色へと変化していく。

「え……!?」

「この花は色んな種類の色があるんだよ。オレンジ色の花も咲くんだけどこの辺りには白い色しかないから……」

数本の花がオレンジ色に変わったところでハウルは手を引っ込めた。

「本物の花が欲しいのは分かるけど、今回はこれで我慢してくれる? 次までにはソフィーが希望する花が咲くようにしておくから」

かごの中に咲くオレンジ色の花をソフィーは目を丸くして見つめている。

「……ソフィー?」

「ほんとに……」

ソフィーは本当にびっくりした、というような声をあげた。

「ハウルって凄い魔法使いなのね……」

「……信じてなかったの?」

「日常の姿を見る限りでは、どうもね」

「そんなぁ……」

情けない顔になるハウルの手を取り引っ張る。

「でもこういう姿はたまに見せてくれるだけでいいわ。あたしにとってあなたは………」

――――言いかけて、ソフィーは頬を赤らめぷいとそっぽを向いた。

「ソフィー?」

「帰りましょ。店を開けなきゃ」

そのままずんずんと歩き出したソフィーに引っ張られるようにハウルも歩き出す。

「ソフィー、言葉の続きは?」

続きが気になって問いかけるもソフィーはついにその言葉を言わなかった。






さてその夜。

部屋にこもって何やら書物を読んでいたハウルは、コンコンというノックの音にはい、と声を返した。

「あたし。今いい?」

ソフィーの声。

彼女の言葉をハウルが断る筈もなかった。

「いいよ、開いてるから入って」

ややして扉を開けて入って来たソフィーは、トレイにティーカップを乗せていた。

「それ、何?」

ティーカップからは湯気が立ち上っている。

かすかにオレンジの香りがした。

「オレンジティー?」

「ハーブティーを作ってみたの」

はい、と机の上に置いたそれをハウルは目を丸くして見つめた。

「ソフィーが作ったの?」

「うん……レシピがあったし、ね」

ソフィーはトレイを胸に抱いて、口元を隠した。

城にそういうハーブの買い置きがあったとは思えない。

ハウルに作る為に色々と買ってきて作った、という事だろう。

「今日のお礼よ。……オレンジ色のお花、やっぱりあの子に似合ってたわ」

ポニーテールが似合う女の子は、今日は髪飾りにオレンジ色をあしらっていた。

ソフィーが小さなブーケを作って渡すと、とても喜んでくれた。

「夜寝る前に飲むとリラックスして良く眠れるんですって。オレンジブロッサムをブレンドしてみたの」

一口飲むと、甘い味わいが舌の上に広がった。

「……美味しい」

「良かったぁ」

ソフィーはホッとした様子で笑みを浮かべた。

「まだ遅くまで調べものをするんでしょ? 早く寝てね」

「有り難う。……ソフィーこそ早く寝るんだよ」

「うん、明日も早いし……あたしは寝るね」

「お休み、ソフィー」

「お休みなさい、ハウル」

小さくばいばい、と手を振ってからソフィーは扉を閉めた。

―――辺りに静寂が満ちる。

ティーカップの取っ手に指を絡め、ハウルは笑みを浮かべた。

「オレンジブロッサム、ね……」

今度彼女にオレンジブロッサムのカクテルをプレゼントしてあげようか。

そこまで強いものではないからきっとソフィーでも飲めるだろう。

「……オレンジ色の花を早く咲かせてあげないとな」

ハウルはそう独り言を呟いて、ほのかな香りを漂わせるそれに口をつけた。










END

440000キリ番作品です。オレンジブロッサムについて色々調べてみたらハーブティーやらカクテルやら色々出て参りました。どっちにしようかと思い、ソフィーが出すとすればハーブティーの方かな……という事でハーブティーに。実際飲んだ事はないのですが精神をリラックスさせるみたいで夜寝る前に飲むのがおススメらしいです。リクとしてはらぶらぶな二人を……という事でほのぼの日常のなかで仲良く暮らしている二人、というのを想像して書いてみました……いかがでしょう、か…(どきどき)。




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