大掃除
「もうっ! これじゃあ新年を迎えられないじゃないの!!」 ソフィーの怒鳴り声が城内に響き渡る。 のんびりと庭で本を読んでいたおばあさんは眼鏡をとって城の方へと視線を向けた。 「おやおや、今日はソフィーの怒鳴り声が聞こえてくる時間が早いねぇ」 「いや、だから魔法で……」 「何でもかんでも魔法で片を付けようっていうのがいけないのよ!!」 エプロン姿で仁王立ちになっているソフィーの前で、小さくなってしまっているハウルの姿。 「大体大掃除くらい自分の手で出来ないものかしら?! そこの床を掃いておいてって頼んだだけなのに」 ―――今やその床は大量の埃にまみれていた。 最初の床の状態から比べると4割増といった処である。 「ちょっと詠唱を間違えちゃったんだよね」 あはは、と脳天気に笑うハウルに、カルシファーが「お、おいおい」と声をかける。 「へ?」 「ソフィーだよ、ソフィー! 本気で怒ってんぞ!」 はっとソフィーを見つめると―――彼女の目は完全に据わりきっていた。 (あ……ち、ちょっとからかいすぎた、かな…?) 「あーそう!」 だん! とソフィーがほうきの柄を床にたたき付ける。 その音に驚いたのかカルシファーがびくっ! と体を縮こまらせた。 「あくまでも、掃除をきちんとしないつもりなのね……?」 ソフィーの方がねばねばを出しそうな勢いだと思うのは決してハウルの勘違いではないだろう。 「あ、あの、ソフィー?」 このままでは下手しなくても「妹の処にいく! 二度と帰らないから!」なんて言って飛び出していく事になる。 ハウルにとってそれだけは避けたい処だ。 「ご、ごめんてばソフィー! もうしません、ちゃんと掃除します!!」 ごめんなさい! と手を合わせてひたすらソフィーを拝む。 「掃除するから、出て行くなんて事だけは言わないで!!」 ひたすら、しつこく拝み続ける。 (その様子を見ていたカルシファーがほんのちょっぴり不安になったのを誰が責められるだろう) ―――ややして。 「……しょうがないわね。ここの床掃除、ちゃんとしてくれたら許してあげるわ」 そう言ったソフィーの声は先ほどよりもやわらかくなっていた。 ハウルが本気で謝っている事を感じ取ったかららしい。 「あたしは別の処を掃除しなきゃいけないから、ここはお願いね。こんなに埃が積もってたらいつカルシファーの火が燃え移るか分かったもんじゃないから」 「分かった」 ソフィーが靴音を鳴らして仕事場の方へと歩いていく。 それを見送ってハウルはカルシファーの方へと向いた。 「……な、何だよ」 「当然、手伝ってくれるよね?」 「え〜〜〜!? 何でおいらが!? 大体おいらは人間みたいな体は持ってないんだぞ! おいらが触れたら全部燃えちまうじゃんか!」 そうまくしたてたカルシファーは、ハウルがにっこりと微笑んでいるのに気が付いて口をつぐんだ。 「……な、なんだよ……」 「大丈夫だから、心配しないでいいよ」 (その微笑みが心配なんじゃないかああああっ!!) カルシファーの心の声は届かない。 「あら?」 仕事場を一通り片づけてまた城の方へと戻ろうとしていたソフィーは、庭のど真ん中で何やら燃やしているカルシファーに気が付いた。 「カルシファー? 何……してるの?」 「……そふぃぃ〜〜」 見ればカルシファーはゴミの上に乗っかる形でゆらゆら揺れている。 ―――つまりは。 ゴミの焼却を任された、という事で―――火の悪魔を自負するカルシファーにとっては不名誉な事この上ない。 よくよく見れば、つもりにつもった埃やら、要らなくなった本やら、壊れたいすやら……一体どのくらい燃やし続ければ灰になるのだろうと思われるほどのゴミがそこにあった。 いくらカルシファーでもこれだけを燃やし尽くすには相当な時間がかかるだろう。 「……カルシファー……お疲れさま」 「……それだけかよ……」 「ごめんね、あたしも忙しいの。後でたっくさんあなたの好きな薪を用意しておいてあげるからね」 そう言うなりソフィーはそそくさと城の中へと入っていってしまった。 後にはゴミの上でくすぶり続けるカルシファーが残るばかり。 (ハウルの奴……絶対おいらにソフィーに怒られた鬱憤をぶつけてるんだよなぁ。ちくしょー!) そうは思うものの、今まで契約していた関係があるせいか、ハウルにもソフィーにも強く出られない。 (……いつか絶対家出してやる……) 実現されたかどうかはまた別の話。 END |
2006年最初の作品です。自分が大掃除をしながらふっと思ったこと。「カルシファーがいればこれだけのゴミ全部焼いてくれるんだろうになぁ……」からネタを作ってみました。最初のオチが決まれば後は早いもんです……いっつもオチとか転で困るんですよね、うまくまとまらなくって。去年の31日は大掃除で大変でした……いやはや、皆様掃除はこまめに致しましょう(汗)。 |