TRICK OR TREAT










「トリック・オア・トリート!」

「ヒン!」

黒い三角帽子と黒いマントに見立てた布をまとったマルクルと、マルクルにつくってもらったと思われるこれまた同じような帽子をかぶったヒンとがソフィーを見つめている。

「はい、どうぞ」

あらかじめ用意しておいたお菓子を包んだ袋をマルクルに渡し、ヒンには彼が好きなチーズやハムが入った袋を首にかける。

「ありがとう、ソフィー!」

早速別の家に行こうとしているマルクルとヒンが扉を開けるのを見て、ソフィーは慌てて声をかけた。

「遅くならないうちに帰ってくるのよ!」

「わかってるー!」

扉がしまったとたんに、城のなかは静寂に包まれる。

ソフィーは軽くため息をついてから片付けをするためにきびすを返した。




「……うちんちにもお菓子をくれくれ攻撃があんのかな〜」

後片付けが一段落したところでカルシファーが声をかけてきた。

「ハロウィンはそういうお祭りだから仕方ないわね。でも来るとしたらお店の方じゃないかしら」

城の扉は店のなかにある扉に繋がっている。

よほど親しい者でなければ店を通って城の方までやって来る事はないだろう。

「お菓子、用意してんのか?」

「マルクルにあげたのと同じものだけどね。中身はクッキーよ」

「あっ、この前夜なべしてつくってたやつか?」

「そうよ。カボチャ味と……」

そこまで言ったところでソフィーはきゃっと短い悲鳴をあげた。

「ハウル?」

後ろからソフィーの腰に腕をまわし、ハウルが抱き寄せたのだ。

「びっくりした……」

「トリック・オア・トリート」

その言葉にソフィーはぎょっとして、背後にいるハウルの顔を見上げた。

「………ハウルもお菓子が欲しいの?」

「ソフィーが作るものなら何でも」

「よくおやつに作ってるクッキーとかとおんなじよ?」

「くれないの?」

ハウルの声色が何となく暗くなって、腰に回っている腕に力がこもる。

「出し渋ってるんじゃないけど……子供がほしがるようなものをほしがるなんて」

子供っぽい……と言いかけて、ソフィーは口をつぐんだ。

(実際、子供とおんなじなのよね……カルシファーに心臓を預けていた間、心の成長は止まってたも同然なんだし)

もし足りなくなったら別のお菓子をあげればいいか。

そう思い直してお菓子を取りに行こう―――としたのだが、ハウルの腕がそれを許してくれなかった。

「……ハウル。腕、放してくれないと取りにいけないんだけど」

「ソフィー、トリック・オア・トリート」

「だーかーらー!」

暫くじたばたと暴れてみてもハウルの腕の力はゆるまない。

そうこうするうちに、ソフィーはぎゅっと抱きしめられてしまった。

「……お菓子をくれないって事は、いたずらしてOKってことだね?」

耳元でそう囁かれて、ようやくソフィーはハウルの作戦に気がついのだった。

「は……はじめっから、そのつもりだったわねぇええっ…!?」

「いたずら決定、ってことで」

ソフィーはそのままずるずるとつれていかれ―――ぱたり、とハウルの部屋の扉が閉じられる。

「…………」

ぱち、と炎が爆ぜる音がして。

「………変なところだけ、大人になっちまったよなぁハウルって……」

カルシファーのため息混じりの声が響いた。












END

久しぶりにこちらの部屋を更新しました。お題の方ではいくつか書いてたんですけども……季節ネタを案外書いてない事に気がつき、ハロウィンネタで書いてみました。原作ではハウルはこちらの世界のイギリス出身なわけですし、こういうのもアリかな………と。
すんごくお約束なネタですんません……意表をつこうにもこれっくらいしか(汗)。




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