15 雨







雨が降る。
ソフィーは窓から雨が降るのをじっと見つめていた。
朝からずっと降り続けている雨は、午後になっても止む気配がない。
そんなソフィーを、ハウルがずっと後ろから見つめている。
空の様子を窺うように見つめているソフィーの様子が気になる。
彼女が寂しそうにしているように見えてならない。
―――この城に来てからというもの、ソフィーはずっと働き通しだ。
元々家事は得意で人の面倒を見るのが好きとはいえ、彼女もまだ10代のうら若き乙女である。
気晴らしをしたいと思ったりする事もあるのではないか――――この頃ハウルはそんな風に思っていた。
(………でもソフィーがそんな風に言いだしたら、僕はちゃんとソフィーの言葉を聞いてあげられるだろうか……)
自分の許容が著しく狭いのは良く分かっている。
今でもソフィーを城のなかに閉じこめたまま外に出したくないと思っているのだから。
複雑な心境でじっとソフィーを見つめていたハウルだったが――――。




「……今日は洗濯物干すのは無理ねぇ……」
そう呟いてソフィーがはぁっと溜息をつく。
「…………」
思わずコケそうになるのを何とか堪え、ハウルは身体をたてなおした。
(……洗濯物の心配をしてたのかっ)
そんな他愛もない事を考えていたのかよっ、というツッコミとソフィーらしくてホッとした部分と。
ない交ぜになった視線に気がついたのか、ソフィーが振り返った。
「あら、ハウル? どうしたのいったい?」
ハウルが色々考えていたことなど気がつく筈もないソフィーは、満面の笑みで問いかける。
「いや……何でもない」
「そう? 今日は雨がずっと続いてるから洗濯が出来ないわねぇ」
「星の湖の方に繋げたらきっと晴れてるんじゃないかな。あっちは雨が少ない場所だし」
ハウルがそう提案するとソフィーは苦笑を漏らした。
「ありがと。でもあそこは大切な場所だから」
ハウルとソフィーが出会った場所。
何処までも非日常なあの場所に日常を持ち込むのは無粋といえるかもしれない。



「しょうがない。買い物にでもいってこようかな」
ちらりと窓の外を見て、まだ止みそうにないのを確認してからソフィーがそう呟く。
「ついていこうか?」
ハウルが言うとソフィーは驚いたような表情になった。
「どうしたの、いつもはめんどくさがってついてきたりしないのに?」
「2人で出かけたらデートになるなって思っただけだよ」
ほんの少しソフィーの頬が赤く染まる。
が、否定的な言葉はない――――ということは着いてきて構わない、という事だろう。
「着替えてくるから少し待ってて」
「お風呂に入ったりしないでよ? そこまでは待たないからねっ」
「はいはい」
去っていくハウルを見送って、ソフィーはまた窓の外へと視線を向けた。


「………雨の日も、たまにはいいかも」


ソフィーの言葉は雨の音のなかに消えていった。






END

06/12/13




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