だいすき!

70000HIT キリ番作品







きょろきょろ。

あたりを見回すと忙しそうに動く従業員たちが見える。

が、ハクの姿は見えない。

「今日も何処かお出かけしているのかな‥‥」

別に用がある訳じゃないけど、何故か探してしまう。

姿が見えないと寂しい。




「千、何をキョロキョロしておる。早く持ち場にもどらんか」

兄役に言われ、千尋は慌てて「はいっ」と返事をした。

「あ‥‥あのぅ‥‥」

しかし去り際にやっぱり聞いてみようとおずおずと話しかける。

「なんじゃ」

「ハク‥様は何処に?」

ああ、と兄役は声をあげた。

「ハク様は湯婆婆様の使いで外に出られておる。今夜遅くには戻られる筈だ」

やっぱり外に出てたんだ。

そう自覚すると寂しさが増す。

「ありがとうございます」

ぺこりとお辞儀をして去っていく千尋を、兄役がにこにこと生暖かい目で見送っていたのを、
千尋自身は知る由もなかった。







仕事も終わり、湯女たちは疲れからか次々と布団の中に入っていく。

それでもハクはまだ帰っては来ない。

「お仕事長引いてるのかな‥‥」

夜空を見上げていた千尋だったが――――やがて「良いこと思いついたっ」とばかりに手を打った。

「そうだっ」

そのままぱたぱたと厨房へとあわただしく走っていく。

そこでは厨房を預かる蛙男達が最後の片づけと明日の仕出しを行っていた。

「あのぅ〜‥‥」


千尋が訳を話すと、蛙男たちは「どうせ残り物だから」と快く場所と材料を貸してくれた。


「さぁてっ、頑張るぞぉ」

腕まくりをする千尋を、蛙男たちはやはり生暖かい目で見つめているのであった。






空が白みかける頃。

ハクはようやく片づいた仕事の結果を抱いて、湯屋の入り口に舞い降りた。

竜の姿からヒトの姿に戻り、納戸をくぐって従業員の入り口から中に入る。




「‥‥‥‥‥‥‥」

入り口すぐのところで、千尋が小さく丸まっていた。

胸に何かを抱いて、胎児のように丸まってすやすやと寝息をたてている。

どうやらハクが戻ってくるのを待っているうちに睡魔に負けたらしい。

そっと千尋の手に触れると、冷たく冷え切っている。

もうずいぶん前からこうしていたらしい。

「‥‥‥千尋、千尋」

小さく揺さぶると、千尋はうめいて目を開けた。

「風邪をひくよ、千尋‥‥‥朝は冷え込むのだから」

「あ‥‥ぅん‥‥」

目をこしこしとこすって、千尋はハクの顔を見つめた。

「あ‥‥お帰りなさい。今、帰って来たの?」

「そうだよ。もしかして‥‥待っていてくれたの?」

「うん‥‥‥えへへ」

千尋は照れたように微笑むと、胸に抱いていた包みをハクに差し出した。

「これ‥‥渡したくて。ハク、ずっと働きづめだからきちんと食べていないんじゃないかと思ったの‥‥」

「‥‥これ?」

包みを受け取り、中身を調べる為にかさかさとあけていく。




中には不揃いな大きさのおにぎりが3つ程、たくあんと共に入っていた。



「これ‥‥千尋が?」

「うん‥‥残り物を分けてくれたから‥‥」

食べてみて? と小首を傾げて可愛く言う千尋の為に、
ハクはおにぎりをぱく‥と一つかじってみた。

ほんのりと塩味が効いていて美味しい。

「美味しい‥‥‥」

思わず口をついて出た言葉に、千尋が飛び上がった。

「ホントっ!? わぁ、良かったぁ!!」

仕事の間は殆ど何も口にしていなかったにも関わらず、
今このおにぎりを口にするまで空腹だったという事に気づきもしなかった。

おにぎりを一つ平らげると、一気に空腹感が襲ってくる。

「ありがとう、千尋‥‥‥作るの大変だったろう?」

千尋がここで働きだしてから長いとはいえ、まだ人間がこの湯屋で働く事を良く思っていない者も多い。

よくここまでの材料を仕入れたものだ。

「ううん、みんな快く貸してくれたから」

何となく不審なものを感じつつも、ハクは残りのおにぎりも全部平らげてしまった。

「おなかすいてたんだね‥‥もっと作っておけば良かったかなぁ」

思った以上によく食べたハクに千尋は目をまん丸くしている。

そんな顔が可愛らしくてハクはついつい吹き出してしまった。

「〜〜〜ハクぅ‥‥??」

「ごめんごめん‥‥」

「何で笑うの〜〜」

「深い意味はないんだよ」

「うそっ。何か理由あって笑ったでしょっ」

さっきの表情から一転して怒り始めた千尋を、ハクは抱き寄せた。

そのままぎゅっと自分の胸に包み込んで抱きしめる。

「はっ‥‥ハクっ‥‥」

「千尋の仕草があんまりにも可愛かったら‥‥つい。ごめんね?」

耳元で囁かれて、千尋は赤くなった顔を隠すようにハクの胸に顔を埋めた。

「本当にありがとう千尋‥‥‥」

耳をくすぐる優しい声に、心臓がばくばくと凄まじい音をたてはじめる。


うわわわ、ハクに聞かれたらどうしよう〜〜!!


腕の中で硬直してしまった千尋に気づき、ハクは千尋を押し戻して千尋を覗き込んで来た。

「千尋? どうかした?」

真っ正面からあの碧の瞳で見つめられ、千尋の頭は完全にオーバーヒートしてしまった。

ふにゃ〜〜とそのままハクにもたれかかってしまう。

「千尋!? だ、大丈夫か!?」

ハクに揺さぶられるが、それに反応出来ないほどにゆであがってしまった千尋であった。







さて。

ハクは帰ってきてからのまわりの視線が気になっていた。

見られている。

そう思ってふいっと振り返ると皆の視線はハクからは外れている。

何なのだろう、この雰囲気は。




「‥‥‥ここのところ、皆から見られているような気がするのだが」

父役にそう切り出すと、父役はぎくっとしたように身をすくめた。

「そ、そうですか? ハク様の気のせいでは‥‥」

「‥‥‥ならばどうしてそのように怯えるのだ?」

「‥‥‥‥‥‥」

ハクのにらみに耐えきれなくなったのか、父役は全てを白状せざるを得なくなってしまった。






「あれ、ハク? どうかしたの?」

ぺたぺたと歩いていくハクを見かけた千尋は、雑巾を絞っていた手を休めてハクに手を振った。

「‥‥‥‥」

千尋を見たとたん、ハクが赤くなる。

「? どうかしたの?」

「いや‥‥」

千尋が近寄るとハクはますます赤くなった。

「どしたのハクっ。熱でもあるの??」

「そ、そうじゃないんだ‥‥その‥‥」

ハクがしどろもどろになっているのをまわりの従業員たちがじぃぃ〜と見つめている。

その視線に気がついて、千尋はきょとんとまわりを見回した。

「‥‥‥‥なんなの? みんな」

「み、みんなっ!! 持ち場に戻れっ!!」

ハクが怒鳴りつけると、従業員たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていってしまった。


後には、不思議そうな顔と赤面したままのハクが残されるばかりであった。





後に原因を聞き出した千尋もその後すぐに赤くなってしまう。

その原因とは。



「いつになったらこの二人は祝言をあげるのか&男と女の関係になるのか」

という賭がまことしやかに裏で行われているという事実。






二人して向き合ったまま赤くなるようでは、その賭の成就はまだまだ遠い。

それまでは湯屋の従業員たちのいい玩具として扱われる事必至の、
まだまだ若く幼いカップルたちであった。







                                                         END
70000キリ番作品です。千尋がハクにおにぎりをあげるというラブラブな作品をっ、というリクエストでした。なので壁紙もラブラブに(笑)。ちょっと疲れ目にはイタイかも(^^; この作品の二人はまぁこれ以上ないっというくらい純な二人になりましたが‥‥たまにはこういうのもいいかも??




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