ご機嫌麗しく

75000HIT キリ番作品







「ん〜〜〜〜〜〜〜っ、終わったーぁ」

試験の終わりを告げるチャイムとともに教室にざわめきが戻り、その中で千尋も大きくのびをして久しぶりの充足感を味わっていた。

「ちーちゃんちーちゃんっ! ようやく試験終わったよー暫く休みだよっ。補習も入ってないんでしょ、一緒に遊ぼうよっ」

友人に話しかけられ、千尋は困ったように笑みを浮かべた。

「ごめーん‥‥もうバイト入れちゃってるんだぁ」

「えーっまた? ちーちゃん休みの日はいっつもバイトいれてるじゃない‥‥お金でも貯めてるの?」

「そういう訳じゃないけど」

「またあの住み込みのバイトでしょ」

別の子が話に加わってくる。

「そうそうっ。千尋っていっつも休みの日は住み込みのバイトしてるんだよねーっ」

だんだんと話が盛り上がってくる――――それに危険を感じ、千尋はちらっと時計を見た。

お昼。

待ち合わせは1時。

もうそろそろ行かないとまずい。

「あ、あの私もう行かなきゃいけないから‥‥じゃね」

鞄をつかむと脱兎の如く走り出す。

「あっ、待ちなさいよ千尋っ!」

そんな友人の声をよそに、千尋は廊下をだーっと走っていく。


どすん。


「きぁ!」

勢い余ってぶつかってしまった。

「あいったぁ‥‥」

「こら荻野。廊下は走るなと言った筈だが?」

その声にしまった‥‥と舌打ちする。

千尋のクラスの担任の原田先生(独身32歳)だった。

熱血で有名で、特にサボりとかには厳しい。

今の千尋の状態はとてもまずいものがある。

「それに荻野は今日は掃除当番じゃなかったか?」

うわやばい。

そう思いつつ千尋はじりじりと逃げようと後ずさっていたが。

「‥‥職員室に来なさい」

その言葉で千尋の運命は決まった。

「‥‥‥はい」






担任の説教は実に1時間は続いた。

その後は罰掃除をさせられて。

千尋がようやく解放された時には既に1時半は回っていて―――どう急いでも遅刻決定な時間になっていた。

「はぁ〜〜‥‥いったん家に帰って着替えてかなきゃいけないから‥‥うわーん、どう考えても2時にはなるなぁ‥‥」

そんな事を愚痴りながら下駄箱で靴を履き替え、慌てて校内を飛び出す。

校門を出て小走りに歩いていた千尋は―――――見た事ある人影を見つけぎくっと足を止めた。



まわりの人がその格好を不審そうに見ながら歩いていく。

だが不審ながらも気になるようで、ちらちらと視線を送る者もいる。


この現代日本ではどう見ても時代錯誤な格好。

しかしその美貌も現代日本では珍しい。



千尋も―――別の意味でその存在に釘付けになってしまった。

千尋の場合は「何故その人がここにいるのか」という理由で。




「―――ずいぶん遅かったね、千尋」

腕組みをしてにっこり微笑んでいるその人―――――ハクは、見るからに「不機嫌です」というオーラをまわりにまき散らしていた。







「ごめんなさいってば‥‥‥」

すたすたと歩いていくハクの後ろから、千尋はひたすら謝りの言葉を投げかける。

「そりゃ私が悪いんだけど‥‥罰掃除させられてて‥‥」

「――――それだけ?」

ハクがくるっといきなり振り返ったので千尋は慌てて足を止めた。

「それだけ‥‥って、それだけよ?」

きょとんとして見つめる千尋の顔を、ハクはただ見つめるばかり。

「その割には色々と話をしていたようだけど」

何の話か分からずに首を傾げていた千尋は、一つの事に思い当たって「ああ!」と声をあげた。

「ハク、もしかして職員室、のぞいたのね!?」



おそらく担任に説教されている千尋の姿を見かけたのだろう。

担任の原田先生は、まだ30代の若い先生だから――――学校という存在を知らないハクはきっと変な邪推をしたに違いない。

「違うよ〜〜あれは先生! 私に勉強を教えてくれている人だよ。掃除さぼって帰ろうとしたところを見つかってお説教されてたの!」

「‥‥‥‥‥」

まだ疑っているらしいハクに千尋は色々と弁解を始めた。


たまたま職員室には二人きりだったけど、いつもは他の先生もいるということ。

勉強は他の生徒たちと一緒に大きい部屋で受けているということ。

などなど。



「‥‥‥わかった」

ハクはようやくそれだけを低い声で呟いた。

「‥‥‥納得した」

どう聞いても納得していない物言いに、千尋は気づかれないように「はー」と溜息をついた。

「‥‥皆が待っているから行くぞ」

ふぃっときびすを返したハクに千尋はまずいっと危険信号を感じ取っていた。



このままではっ!

絶対に今日の夜、いじめられる!!!

‥‥どうやってというところまでは突っ込まないのが礼儀というものであろう。

機嫌をとっておかなければ、明日の仕事がとても辛く厳しいものになる。




考えたあげく、千尋はある決断をし―――ぐっと拳を握りしめた。





「‥‥千尋? 早く来ないとおいていくぞ」

千尋がついて来ないのを不審に思ったのか、ハクは振り返った。

千尋はハクから10メートルほど離れたところに立っている。

「‥‥千尋」

動こうとしない千尋にハクは舌打ちし、また千尋の元へと歩いて戻って来た。




「千尋‥‥‥早く行かないと、湯婆婆が‥‥」

ハクの言葉は続かなかった。

千尋がハクに抱きついて、そのまま唇にキスをしてきたから。

「――――‥‥!」

さすがのハクも千尋の思わぬ行動に対処出来ず、目をぱちくりさせるばかり。

が。

その後の行動はさすがに早かった。

唇を離そうとした千尋の腰に素早く腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

「っ‥‥んっ‥‥」

この際とばかりに、ついでに唇を割り込んでみる。

「〜〜〜〜〜!!!」

ディープキスに変わりつつあるキスに千尋はじたばたと暴れていたが、やがてその抵抗も静まり――――

ようやく解放された時にはぐったりとして自分で立っている事も出来ないくらいに脱力しきってしまっていた。

「‥‥このくらいで私のご機嫌をとるつもりかな?」

そう囁いて笑みを浮かべるハクは、さきほどよりも明らかに上機嫌。

「そ、そゆつもりでは‥‥」

「まだ足りないな‥‥このくらいでは」

「えっ」

ようやく解放されたと安堵の息をついていた千尋は、ぎくっと体をこわばらせた。

「楽しみにしているよ‥‥千尋」




墓穴を掘った!!


千尋がそう気がついても、後の祭りであった。





その日の夜に千尋がどんな目に遭ったかは、想像の通りである。







END


75000キリ番作品です。キスネタがここのところ続いております(笑)。今回は「ハクがヤキモチ焼いているのを宥める為に千尋からのキスする」みたいなシチュエーションのリクでございました。そろそろオチがだんだんマンネリ化してきているぞと思いつつ‥‥‥裏に走らずにブラックネタはこのくらいが限界でございましょうか(笑)。




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