いとしい竜
白い竜。 わたしの大切なひと。 空を見上げれば、あのひとが微笑んでいる。 手を広げ空を仰ぐ。 あのひとが舞い降りてくる。 「――――ハク!」 髪がなぶられるのにもかまわず スカートのひだがまくりあがるのも気にせず わたしは手を広げた。 くるるる‥‥とのどをならす白い竜に抱きついて、わたしは頬ずりした。 ―――と、竜は突然わたしの体を鼻先でぐぃぐぃと押した。 「え? なに?」 ―――乗れ、と言ってるの? 「だ、だめだよ。ここは、あの世界じゃないんだし‥‥見つかったら大変‥‥」 そんなわたしの言葉にもかまわず、ぐぃぐぃと押してくる竜。 わたしはしぶしぶ竜の体を撫でてその体にそっと乗った。 わたしが乗ったのを確認すると――――竜は一気に宙へと舞い上がった。 「きゃあああああっっ」 そのあまりの勢いと風に、わたしは竜にしがみついて悲鳴をあげた。 風がふっ‥‥とやわらぐ。 おそるおそる目をあけると―――― 「わぁあ‥‥」 光の海。 夕暮れにさしかかり、少しずつ夕闇に染まりつつある大地。 そこに見えるは人の営みの証の灯り。 まるで夜の海にうつる星の光のよう。 そう。 銭婆の元からの帰り道見たあの海。 「――――まるで、あの海みたい‥‥‥」 わたしはそっと竜のうろこを撫でた。 同じことを考えていたのだろう、そっと首をもたげ―――微笑む。 昔は人を見つめてきた、今は無き川の神。 今は、わたしの竜。 わたしだけの―――いとしい竜。 「‥‥‥‥」 名をそっと呼ぶ。 与えられた名ではなく。 本当の名を。 あのひとと、わたしのなかだけに息づく名を。 そのとたん 竜は――――空のもっと高みに―――その身を躍らせた。 今度は、怖くなかった。 わたしだけの竜。 今度こそ、二度とこの手を離さない。 だから わたしを離さないで―――――― END |
イメージアルバム「白い竜」を聞いた後のインスピレーションで書いちゃったものです。珍しく、推敲も2回くらいですんだ作品なのですが‥‥これが千尋作品の最初だったりする(^^; 千尋って本当にハクを大切に想ってるんだなぁ‥‥白い竜は好きな曲の一つです。 |