夏がくる

44444HIT キリ番作品






夏がくる

もう何度も経験した夏


ハクは空を見上げた。



真っ青な空に雲が浮かび

細長く続く雲は飛行機雲



もう何度夏を経験しただろう。

そしてこれから何度経験していくのだろう。



ハクは自分の手首に視線を向けた。

そこには

紫色の髪留めが光っていた。






千尋が人間の世界に戻ってから10年。

ハクはようやく千尋の元に行くだけの準備を整えることが出来た。

「千によろしくなー!」

皆の声に軽く頷き

油屋に別れを告げ

トンネルを歩いて行く。



そして

ハクを出迎えてくれたのは―――――







「ハク」

トンネルの前に、千尋が立っていた。

背が伸び、体つきも女性らしくなり、

子供の時と同じように髪をポニーテールにくくり。

「‥‥待ってたんだよ、ハク」

千尋はにっこり微笑んで両手を広げた。

「千尋‥‥‥」

導かれるように千尋に近づいて―――ハクはその体を抱きしめた。

自分とは違う、華奢な体。

強く抱きしめたら折れてしまいそうなそれに、少し力をゆるめる。

「だめ。ゆるめないで」

ハクの胸で、千尋が呟いた。

「もっと‥‥強く抱きしめて」

「千尋‥‥?」

言われるままに強く抱きしめると、千尋の手はハクの服をつかんで来た。




どのくらいそうしていただろう。

「‥‥良かった。会えて」

千尋は顔をあげて、微笑んだ。

「もう‥‥思い残す事はないわ」

すっ‥と千尋の体がハクから離れる。

「千尋? どうしたんだ?」

「会いたかったの。ずっと‥‥待ってたの。ずぅっと‥‥」


‥‥また、会えるよね。

千尋の唇がその言葉を告げる。



そうして

千尋の姿はすぅっ‥と消えた。


「千尋!?」

ハクが叫んだ時には、もう千尋の姿はない。


そして

ハクの手には―――千尋が身に付けていた、あの髪留めが残されていた。









ピンポーン


「はい‥‥」

かちゃり‥と扉を開けた荻野悠子は、初めて見る客に首を傾げた。

「あの‥‥何のご用でしょうか?」

「‥‥私の名はハクといいます。あの‥‥千尋さんに、会いたくて」

そう告げた青年に、悠子は顔をほころばせた。

「まぁ‥‥千尋に会いに来てくれたの? どうぞ、あがって‥‥」

久しぶりの娘への客を、悠子は部屋の方ではなく――――居間の方へと案内していった。



そこには

千尋の写真と、花とが飾られていた。








「ちょうど1年前の夏だったわね‥‥‥川に落ちた子供を助けようとして」

悠子は少し涙ぐみながら、語りだした。

「その子供は助かったんだけど、千尋は‥‥助からなかったのよ」

この街に来てから、妙に正義感の強い子になって‥‥と悠子は懐かしそうに千尋の事を話していく。

「そういえばあの子‥‥口癖のように言ってたわね。「いつか自分を迎えに来てくれる人がいるんだ」って。いつまでそんな夢物語みたいな事を言ってるんだろうって思ってたけど‥‥もしかしたらあなたの事だったのかもしれないわね」

「‥‥そうですか‥‥」

ハクはそう答えるのが精一杯だった。

「あら?」

悠子はふとハクの手首に目をやった。

「それは‥‥千尋がいつも身につけていたものじゃない? よく似ているだけかしら‥‥」

「あ‥‥これは‥」

「お守りだって、いつも肌身離さずつけていたのよ」








千尋が最後に来たという川

ハクはその川に立っていた。



「‥‥‥どうして」

どうしてあの娘の命を奪ったのですか?

ハクの問いかけにその川の主は黙したまま。

「‥‥どうして!?」



どんなに待っても、答えは返らなかった。










いつか、もう一度会えるだろうか。

人は何度も輪廻を繰り返すという。

こうして待っていれば、いつかもう一度千尋に会えるだろうか。

神でもなく人でもない自分は、死せば無に帰るだけ。

死んだとしても千尋に会う事は出来ない。

だから

ハクには待つしか出来なかった。


いつか、千尋に会える日を。






夏が来る。

荻野家はとうの昔に空き家になり、今はそこにはマンションが建っている。

千尋が落ちたあの川も埋め立てられ、今では高速道路が走っている。

最後に千尋に会ってからもう何年がすぎたかなど、忘れてしまった。


それでも

待つしか出来ない。



「‥‥いつか会える」

その言葉を信じるしか出来ない。





いつか、きっと――――――――







END



44444キリ番作品です。ダークな話を‥‥と言う事で考えてみましたが‥‥う〜〜む、難しいですね(汗)。どっちかといったら切ない系かも(汗)。この後会えたかどうかは想像にお任せ致します。自分で書いててハクが可哀想で可哀想で‥‥‥(T▽T)。




HOME