うりふたつ

88888HIT キリ番作品









「‥‥‥‥‥‥‥‥」

仕事の空き時間。

何やら真剣に読みふけっている千尋に気がつき、リンがひょいと上から覗き込む。

突然暗くなったので、何事かと千尋が上を向いた事で、視線がばっちりと合った。

「‥‥‥どしたの? リンさん」

「いや‥‥何か熱心に見てるから、なんだろうと思って」

「これ」

千尋が差し出したのは、A4くらいの大きさの雑誌だった。

いわゆる漫画雑誌というもので、千尋のような女の子が読むにはちょっと不向きかと思われるような少年向けの絵柄がごちゃごちゃと載っている。

「‥‥‥‥これ、なんだ?」

「私の世界で売り出されてる漫画雑誌なんだけどね」

ぺらぺらっ‥‥と千尋はページをめくると「ここっ」ととある場所を指さした。

「‥‥ここ?」

「そう‥‥これ見てよ」

千尋が力説するその部分を見て、リンは「はぁ‥‥なるほど」としか言葉を出せなかった。

そこに映っていたのは―――――――







「ハークっ」

語尾にハートマークたっぷりつけて、可愛らしく覗き込んで来た千尋に、ハクは"予感"めいたものを感じていた。

いやな予感を。

「‥‥‥なんだい、千尋?」

それだけをようやく口に出すと、千尋は満面の笑みでずいっっとハクの前に何かを差し出した。

それは、さきほど千尋がリンに見せていた漫画雑誌。

千尋が開いたそのページには、黒髪を切りそろえた少年(と言っても既に10代の後半にさしかかっているだろう)が載っていた。

そう。とてもハクに面差しと髪型が似た、件の少年である。

「‥‥似てると思わない?」

それを一瞥して、ハクは「似てない」と返してみた。

無駄だと思いつつも。

「似てるって! この目つきの鋭さとか、そっくり!!」

「‥‥千尋」

妙に力説する千尋に脱力を覚えつつ、ハクは一つの質問を返した。

「百歩譲って似ているとして‥‥それで一体千尋はどうしたいんだい?」

「ハクっていっっっっっつもその白い水干着てるじゃない? まずはその服装とかも替えてみて、髪型もちょっと短めにしてみたら、ぐっと印象変わると思うのよね? どう?」

「‥‥‥‥‥‥」

「ね? ハク??」

にっこりと微笑んで近寄ってくる千尋に、ハクは思わず後ずさりしてしまった。

「い、いや‥‥私はこれから仕事があるから、じゃあ」

と去ろうとしたハクの水干を、はっし! と掴んだ千尋の動きは、いつものよくすっころんでいる彼女からは考えられないほどであった。

「ち、千尋っ!?」

「うふふふ、ちょ〜〜〜っとだけだから‥‥ね?」

笑顔が、怖い。

このままいっそ女性不信になってしまえたらどんなにラクだろうと思いつつ、ハクは後ずさるしか出来なかった。

「ち、ちょっとだけって‥‥千尋、その手が怖いんだけど」

片方の手でハクの水干をつかみ、もう片方の手をわきわきさせながら微笑む千尋は、誰が見ても「何かたくらんでいます」としか思えないだろう。

「怖くないよ? ハクがちょっとつき合ってくれればそれでいんだから、ね?」

やる気だ。

別にそういう格好をするのがいやな訳ではない。

いやではないのだが。

二番煎じというのがひっかかる。



「千、何やってんだ! そろそろ仕事だぞ!」

リンの声で、千尋の気がそれた。

そのスキにハクは千尋の腕をふりほどき、ずんずんと歩き出した。

「あっ、ハク!」

とりあえず、今は振り向かないで歩いていく。

それがたとえ愛しい少女の呼びかけであったとしても。

「ぜぇぇったいに諦めないからねっ!」

妙に強すぎる好奇心と、それを実行に移す変に強い行動力さえなければ言うことないのだが。







仕事中はさすがに千尋も何も言って来なかった。

このまま忘れ去ってくれれば言う事ないのだが。

もちろん魔法で記憶を消す事など、ハクには造作もない事であったが、それはしたくなかった。

千尋が自力で忘れ去ってくれる事を祈るばかりである――――――。

が。



「ハークっ」

仕事が終わるや否や駆け寄って来た千尋に、思わず逃げようとしても罰は当たるまい。

「何で逃げるのっ」

むんず、と掴まれて引きずられる。

あのか弱い体の何処から、こんな力が出てくるのだろう!?

「んー、まずは髪を切って‥‥ハク、肩くらいまでのびて来てるものね。ちょっと長いし、切った方がさっぱりするわよね。それから服を着替えて‥‥」

「ち、千尋っ! 私はまだ承知した訳ではっ‥‥!」

「あれ、湯婆婆のおばあちゃんの了解は得たよ? 好きにしていいって」




――――――絶対にコロス。











さて、数十分後。

「おーい、まだかぁ?」

リンと千尋がわくわくしながら部屋の前で待っている。

ややして、中から返事が返って来た。

「‥‥‥‥いいぞ」

その言葉を待っていましたとばかりに、千尋は勢いよくふすまをあけた。




「わぁ、ハク! やっぱり似合ってる!!」

千尋が素直に感動している隣で、リンは必死に笑いをこらえていた。

「‥‥‥‥リン」

低い声に、リンは慌てて笑いをこらえようとしたが――――その試みはものの数秒で終わり、ついには大爆笑をはじめてしまった。

「ひーひー、くるしっ! い、いや‥‥おまえマジで、あの絵そっくり!!」


ムスッとした顔で立つハクは、どこから調達して来たのかスーツに身を包み、のびかけていた髪は千尋と出会った頃にまで短く切りそろえられていて。

どこから見ても某少年そっくりであった。



「やっぱりあたしの目に狂いはなかったわねっ!」

笑い転げているリンと対照的に、千尋は満足そうにうんうんと頷いている。

ちょっと、いやかなり女性不信に陥りそうになるハク様であった。









ちなみに、その漫画がTVで放映される事になったあと。

そのTVを見ている神様も結構いるらしく、あちこちでハクがそのコスプレを要求されるようになったのは後日談。







END


88888キリ番作品です。もうあちこちで取りざたされている某囲碁打ち少年との関連性を‥‥というリクを頂き、頭をひねって考えてみましたがこの程度になってしまいました(爆)。実はコミックスも全部は読んでませんし、アニメはまだ最初の方だし‥‥という事でものすごーく知っている訳ではないのです、彼の事は(^^;;
なのでこの程度でお茶を濁してしまいました〜〜(^^;;




HOME