お年玉
千尋は大きくため息をついていつもの森へと向かっていた。 「はぁ〜……もうちょっと貰えると思ってたのになぁ。これじゃハクにプレゼントを買うのも大変かも……」 思ったほどにお年玉が貰えなかったために、去年よりも随分と寂しいお正月となってしまった――少なくとも千尋にとっては。 「バイト、始めるかなぁ……でもハクと会う時間が減るのは嫌だし……」 そんな事をぶつぶつ言いながら歩いていた千尋は、ふと辺りを見回した。 「……ハク?」 未だ姿は見えないがハクの気配を感じる。 まだ森の奥へは入っていないのだが、迎えに来てくれたという事だろうか。 「――あけましておめでとう、千尋」 そんな声が聞こえて、ハクの姿が風のなかから浮かび上がった。 「明けましておめでとう、ハク。今年もよろしくね」 千尋の言葉に頷いたハクは、ちょっと小首を傾げて見せる。 「何かぶつぶつ呟いていたね。どうかしたのかい?」 「あ……」 一瞬ハクに言うべきか、とも思うが隠していても仕方ない。 「実はね……」 そう前置きをしてからハクに自分が不満に思っている事を述べてみる。 それをハクはいちいち頷いて聞いてくれていた。 「お年玉……昔はお餅をあげたりしていたものだけど、今は金銭なんだね」 「お餅?」 「そう。年神様へと供えられた餅を頂くんだ。それをお年玉と言っていたんだよ」 「へぇ……」 見た目は自分と同じくらいでも、やはりハクは長き時を生きてきた主なんだな、と実感する。 「供え物には神の力が宿っている。それを頂くことで人は力を新たに蓄えて、また一年を過ごすんだよ」 「そうなんだぁ……」 単にお小遣いが増える、くらいにしか思っていなかった事をちょっぴり反省していた千尋だったが、ハクがまた自分を見つめている事に気がついてちょっと身をすくめてしまう。 「な、なあに?」 「千尋はお年玉が欲しいのかい?」 ハクが金銭を持っているとは思わないが、だが欲しいかと聞かれればやはり欲しい。 だから千尋は素直に頷いたのだった。 「うん、欲しいって聞かれたらやっぱり欲しいかなぁ」 「そう。なら私がお年玉をあげよう」 「……ホント?」 一体何をくれるというのだろう――そう思って立っていた千尋は、ハクが近づいて来たのに気がついて首を傾げた。 「……ハク?」 え、と思う間もなく、ハクの顔が近づいてくる。 「ハク……っ」 身を引くよりも早く、彼の唇が重なってきた。 ややしてハクが身を離す。 千尋はというとそのまま目を丸くしたまま固まっていた。 「……千尋? どうしたんだい?」 その言葉ではっと我に返り、千尋の頬がかああっと赤くなる。 「ど、どうしたもこうしたも……い、い、いきなりき、キスするなん、て……っ!!」 「いきなりって……今のがお年玉だよ?」 「……え?」 お年玉、と言われてもとっさに言葉が出て来ない。 「千尋に私の力を少し分け与えておいたから。今年一年はきっと良い年になるよ」 ハクの方はにこにこと微笑んで千尋を見つめている。 (……い、いきなりはないよ〜! 心の準備ってものがぁああ……!) ハクにとってはそう大したことではないのかもしれないが、千尋にとっては一大事である。 ――それを彼に訴えても恐らく分かっては貰えないだろうが。 (私が慣れるしかないんだよね……) とは言いつつも―― (……新年早々キスしちゃったのは、嬉しいかも……) さい先良いな、と思わないでもない千尋だった。 END |
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。というわけでいよいよ今年はせんちひ公開10周年となります! 早いですねぇもうそんなに立ちましたか……千尋も今年20歳になる訳ですねえ。またTV放映もされることですし、ファンが増えれば良いなぁと思います。 |