ゆめうつつ
454545HIT キリ番作品
ゆっくりと意識が浮上する。 (―――あぁ……目覚めるんだ、私……) 千尋はそう思いながら夢と現の間をいったりきたりしていた。 (起きたらまた学校だなぁ……やだなぁ、もうちょっと寝ていたいな…) このほんの少しの時間の惰眠がとても気持ち良かったりする。 (後、5分……) そんな事を思いながら布団に潜り込もうとした千尋は、ふと違和感を感じた。 (見つめられてる……?) そう思った途端に意識がクリアになった。 がばっと布団をはねのけて起きあがる。 「早く起きないと遅刻だよ。後30分で予鈴が鳴る」 跳ね起きた千尋の視線の向こうで、ハクが笑みを浮かべて椅子に座っていた。 「……ハク……勝手に部屋に入るのはダメだってあれほど言ったのに……」 どうもこの若い龍神は人間ならばおそらく分かる筈の礼儀とかマナーとかそういうのが欠けているっぽい。 人間ではないのだから仕方がないのだが、元々性別すらもあるかどうか怪しい彼にとっては女性の部屋にいきなり入るのはまずい、という感覚が良く分からないらしい。 と、そこまで考えて千尋は先ほどハクが重大な事を言った事に気がついた。 「……後、30分…?」 「そう」 盛大な千尋の悲鳴があがったのは言うまでもない。 「ハクも部屋に入ったなら起こしてくれればいいのにっ!!」 「一応声はかけたんだけど」 「人の寝顔を観察するのは誉められた趣味じゃないわよ!!」 「じゃどんな趣味ならお気に召すのかな」 「そんな事自分で考えてよー!!」 そんな事を話しながら全力疾走し(だから余計に疲れるのだ)、本鈴2分前に教室へと何とか滑り込む事が出来た。 「お疲れ、千尋……今日も速水くんと一緒だったねぇ」 席についた途端に友人がそんな事を話しかけて来て、千尋はその友人をちらりと睨み付けた。 「……ラブラブだねぇって言いたいんでしょぉ……」 「そりゃそうよ。あれだけ格好良かったらストーキングされてもいいって思っちゃうわぁ」 実際にストーカー紛いの事をされている身とすれば「本気かよ!?」とツッコミを入れたくなる処ではあるが、下手にハクの耳に入って拗ねられても困るので黙っておく。 (ま、それが龍神だって教えて貰ったし、仕方ないんだけどね……) 竜は一途で裏を返せば嫉妬深い生き物だと教えられた。 そこらは重々承知の上で付き合っているし、そこがイヤになった訳ではない。 (でも勝手に部屋に入るのくらいはやめて欲しい処よねぇ……) ―――好きな男性に寝顔を見られるのはどうも恥ずかしい。 ハクからすれば「何を言っている」という事になるのだろうが、そこらは乙女心である。 (そうだ、今日は湯屋に行く日だし……リンさんに相談してみようかなぁ……) そんな事を思いながら千尋はちらりとハクの方に視線を向けた。 千尋の視線に気づいていないのか、ハクはひたすら前に立つ教師を見つめている。 (……本当に、格好いいよねぇ……) 改めてうっとりと見つめてしまう千尋も人の事は言えない。 「……お前、気がつくの遅すぎ」 千尋から相談を受けたリンは、そう一刀両断した。 「ええっ!?」 「普通部屋に侵入してくる処でおかしいって思うだろが」 「そうかなぁ……」 「思考、毒されてるぞ……」 リンは呆れたように肩をすくめた。 「まぁ嫌だって思うならはっきりと言うこったな。いくらハクでも千が嫌だという事はしねぇだろうし」 「そう、かなぁ……」 「言ってみな」 多分無駄だと思うけど、という言葉をリンは呑み込んだ。 という訳で仕事が終わってから。 就寝までは間がある為、千尋はハクの元を訪れていた。 先ほどリンに言われた事を実行してみる為である。 「……で、私に話ってなんだい?」 ハクにそう問われ、千尋はおずおずと口を開いた。 「あのね……私、ハクの事は好きなんだけど……一つだけ、ハクに止めて欲しいなぁって思う事があるの」 ハクの方は表情を変える事なくうん、と頷いて続きを促してくる。 「……部屋に入る時は私の許可をとってからにして欲しいんだけど……」 「つまり、千尋がいいと言ったら入っていいって事なんだね?」 「……まぁ、そういう事になる……かな?」 何となく論点がズレたような気がしないでもないと思いつつも千尋は頷いた。 「分かった、そうするよ」 だがあっさりとハクが頷いてくれた事で気になっていた事も全部すっとんでいった。 「お願いね、ハク」 ―――何だ、最初からきちんと話してれば良かったんだぁ。 そんな事を思いつつ女部屋へと戻っていく千尋であった。 さて。 湯屋での仕事が終わり再び家の方へと帰って来た千尋は、たまっていた宿題を片づけてぐっすりと眠っていた。 「……すー……」 (―――遠くから、何か、声が聞こえるなぁ……) 何か聞こえるのは分かるのだが、何を言っているかは分からない。 (……うぅ〜〜……もうちょっと寝かせてぇ……) そう心のなかで叫ぶが当然心のなかでの叫びは届く筈もない。 声は、まだ聞こえている。 「う〜〜……うるさぁい……」 寝ぼけた口調で言うものの、まだ向こうには伝わらないようだ。 ―――どうやら、「いいのか?」みたいな言葉を発しているようだ、と動いてない頭で千尋はそう理解した。 「……好きにして〜〜……寝かせてー……」 そう返事を返すと、声はぴたりと止んだ。 (……これで、眠れる……) 千尋は再び深い眠りへと落ちていった。 「ふわぁ……」 ぐっすり眠った後は頭もクリアになって気持ちがいい。 布団から身を起こして背伸びをした千尋は、その姿のまま固まった。 「おはよう、千尋」 千尋の勉強机の椅子に、ハクが座っている。 「なっ……何でハクがいるのぅっ!!?」 勝手に入っちゃダメ、って言った筈でしょう!? そう叫んだ千尋にハクは笑みを浮かべた。 「入っていいかい、って聞いたよ? そしたら「いい」って返事が返ってきたから入ったんだけど」 「…………」 あの夢現のなかで聞こえた言葉はそういう事だったのだ。 「……そう、聞こえなかった……」 「千尋が寝ぼけた状態で聞いたからじゃないかな?」 しれっと言うハクに千尋はがっくりと項垂れた。 (この人に勝てる筈がなかったんだ………はぁ〜〜) 結局千尋がハクの好きにさせるようになるまで時間はかからなかったという。 END |
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久しぶりのせんちひ小説です。タイトルは仰々しいですが内容は至ってほのぼの。夢と現の間でたゆたってる千尋の状態から名付けてみました。こういうのも家宅侵入罪なんですかね……龍神に適用出来るのかどうか分かりませんが。なんのかんの言ってバカップルです。 |