星の子
その1

Web拍手御礼作品







千尋はあのトンネルへと向かう道を歩いていた。

その隣にはハクも一緒に歩いている。

「今日もお客様多いのかな」

「さぁね……予約のお客様が何組か入ってるのは確認したけど」

「そっかー。今回は私どこに回されるのかな? 私一度も湯女ってした事ないんだけど、しなくっていいの?」

「……しなくていいよ。湯女はもっと年上の者たちに任せればいい」

「年上って……私も17歳になったんだし、おねえさま達とそう年も違わないと思うんだけど」

「しなくていいんだよ、千尋は」

「ふーん……」

そんな事を話しながら森のなかを歩いていた二人だったが。

「―――……?」

トンネルが見えて来たところでハクが足を止めた。

「……どうしたの?」

千尋も同じように立ち止まってトンネルとハクとを見比べる。

「何か違う……」

そう言いつつハクはトンネルへと近づいた。

千尋はトンネルを覗き込むハクから視線をトンネルの上の方へと視線を向けた。

「……何か、壁の色が違うね」

湯屋と繋がっている時のトンネルは壁が赤いコンクリートのような材質になっている(父はモルタル製だと言っていたが千尋は良く分からない)のだが、今は石造りのようになっている。

「もしかして湯屋のある世界と繋がってないのかな……」

ハクは暫し考え込んでいたがやがて千尋の方へと振り返った。

「この先が何処へと繋がっているのか調べてくるよ。千尋はここで待っておいで」

「えっ、嫌よそれ!」

たぶんハクはそう言うだろうな、とは思っていたので千尋は即答を返した。

「一緒に行く!」

「ダメだよ。もしこの先が全然違う世界に繋がっていたら……もしかしたら戻れなくなるかもしれないんだよ」

「それだったらハクも行ったら最後、帰ってこれなくなるってことじゃない。そんなのいや!」

「でも…」

ハクが渋るのを何とか説得しようと千尋は食い下がる。

「一緒に行こう? その方がいいよ」

「…………」

暫く悩んでいたハクはふぅ、と溜息をついて頷いた。

「仕方ないね……でも私の傍を離れちゃ駄目だよ」

「うん!」

結局ハクは千尋に甘い。

リンがその場にいたら絶対にそう言うに違いなかった。













入り口が遠ざかるにつれて段々と暗くなってくる。

ハクの手を握り黙って歩いていくものの、本当に良かったんだろうかという不安が千尋の胸のなかでひしめいていた。

「……大丈夫?」

千尋の手がじっとりと汗ばんできたのに気がついて、ハクが声をかけてくる。

「大丈夫……何処まで続くんだろうね、このトンネル」

出来るだけ声がうわずらないように気をつけつつ返事を返すが、きっとハクにはバレバレだろう。

その後は二人とも無言で歩き、靴音だけがトンネル内に響きわたっていた。

「……壁が変わった…」

ふとハクが足を止めて上を見上げる。

もう入り口の灯りは千尋たちの処まで届かず、壁にくっついているコケが微かに光を発するのかぼんやりとした景色しか千尋には見えない。

「変わった?」

「人工的な造りだったのが、自然のものに変わった。床もざらざらしたものに変わったの、分かるかい?」

足で床を軽く蹴ってみる。

確かにざらっとした岩のような感覚が靴を通して感じられた。

「……何処に続いてるんだろうね」

「分からない……でも自然で作られた何処かに繋がっているみたいだね。少なくとも湯屋には通じていないようだ」

再び歩き出すハクにくっついて千尋も歩き出す。

―――と、歩く方向に微かな光が見えた。

「出口?」

「そうだね。あそこまで行けば何処に繋がっているのか分かるだろう」

足早にその光を目指して歩いていく。

その光は近づくに連れてどんどん大きくなり、出口である事が千尋の目にも分かった。

「……!!」

出口をくぐった途端、今まで暗闇に慣れた瞳に光が差し込んで来て、千尋はまぶしさに目をつむった。

「―――千尋、見てご覧」

ハクの声に千尋は目が慣れたのを確認してからそおっと目を開けた。



「―――ええええっ……!?」



眼前に広がるのは一面の花畑。そしてその向こうには美しい湖が広がっている。

「こ…こんな風景、初めて見た……!」

「……すごいね…」

千尋もハクも言葉なくその情景を見つめる。

二人は花畑を一望に見渡す崖の中腹に立っていたのだった。