会いたくて
その2

30000HIT キリ番作品






森の入り口から歩いて来たハクは、見慣れた大木の下で誰かが座っているのに気がついて足を止めた。

「‥‥‥?」

千尋が、座り込んでいる。

目を閉じて、膝を抱え込んで、小さくなって。

「千尋‥?」

ハクが駆け寄って千尋を揺り動かすと、千尋はぱちっと目を開けた。

「‥‥ハク‥‥‥」

「どうしたんだ? 学校は? もう終わったの?」

突然、千尋の瞳から涙がぽろっと落ちる。

「千尋‥‥‥!?」

「今日はテストだけで、早く終わったのっ! 昨日ハクに会えなかったから‥‥早く会いたくて‥‥来てみたら、ハクいないんだもん‥‥」

手の甲で涙を拭いながら訴え続ける千尋に、胸が熱くなる。

「どこいってたの!! いなくなっちゃったのかと思って‥‥心配したんだからぁ!!」

抱きついてくる千尋を抱き留め、ハクはぎゅっと千尋を抱きしめた。

「ごめん‥‥ごめんよ、千尋‥‥‥」

「会えなくて‥‥淋しかったんだからぁ‥‥!!」




ひとしきり自分の中の想いを吐露したためか、千尋はだんだん落ち着いて来た。

‥‥そっ、と体を離そうとするが、ハクの腕の力が強くふりほどけない。

しかも、その腕が微かに震えている。

「‥‥ハク?」

とりあえず、ハクの顔を見ようと頭を巡らせかけた千尋は

「もう少しこのままでいて‥‥」

というハクの言葉に、仕方なくハクに抱きしめられたままでおとなしくしていた。





きっと、千尋の感じる「淋しい」と自分の感じる「淋しい」は違うだろう。

でも


――――嬉しかった。


自分はここに存在していいのだ、と千尋が言ってくれたような気がして。




神にも戻れず

人にもなれない自分だけれど

それでも

彼女のそばにいる事だけは出来る


この世で唯一自分を受け入れてくれる少女のそばに――――





「ハク‥‥‥泣かないで‥‥ごめんね、変な事言っちゃって‥‥」

優しく背を撫でてくれる千尋の腕を感じて、ハクはよりいっそう力をこめて千尋を抱きしめた。







「今までの中で一番いい点だと思うよ、今回は!」

そう胸を張って自慢する千尋の話を、ハクは一つ一つ頷いて聞いている。

「たぶん、90点はいけてるんじゃないかなぁ‥‥‥もうお母さんにも文句言わせないんだから」

「良かったね、千尋」

「うん!」

それでね‥‥と千尋はハクを見上げて来た。

「‥‥なに?」

どきん‥としながらも千尋を見つめ、ハクはあくまでも冷静に返事を返した。

「昨日会えなかったんだし‥‥これからどこか遊びに行かない? ハクのスキなところでいいから」

このままお話してるのもいいけど、天気もいいから二人でどこか遊びに行きたいな。

そうおねだりをしてくる千尋に、ハクはちょっと上を見て考えた。

「‥‥じゃあ、昨日私が行ったところに案内しようか」

「ええええ、ハク、昨日遊びにいってたの!? ずるいずるい!! 私一生懸命勉強してたのに、ハクばっかり!!」

「だから、お詫びに千尋も連れていってあげるよ。それで機嫌を直して‥‥ね?」

優しく微笑みかけられると、千尋はそれ以上強くも言えない。

「‥‥ん、わかった」

まだ拗ねているらしい千尋の手をとって、ハクはきゅっと握りしめた。




切ない想いに身を焦がす夜はまたあるかもしれない。

でも――――きっとその時にこの小さくも華奢なこの手を思い出せる。



「早く行こうよーハク!」

せかす千尋に、ハクは「うん」と微笑みを返した。






END


30000キリ番作品です。シリアスでハクを泣かせて欲しい(でも嬉しいほうの涙で)というリクエストだったのですが‥‥なんで泣かないのよハクってばっ!!!!(失礼) たいてい私はリクエストを頂いた後、そこから連想ゲームをしてネタを考えるのです。今回は「うれし涙→優しさに触れる→それまでが辛かった→千尋と離ればなれ」みたいな感じで組み立てていったのです。けど‥‥‥先に千尋が泣きました(汗)。だめじゃん(汗)。密かにハク様泣いてます‥が、とってつけたみたいで何かイヤかも(しくり)。修行します‥‥(汗)。
今回のタイトルは、谷山浩子さんの「会いたくて」という曲から。聞きながら話を書いてたので、ハクがむちゃくちゃ女々しいです(脱兎)。




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