かわいい悪魔







さて、数日は何事もなく過ぎた。

が。

「ハーク♪」

という千尋の甘えるような声で、平和は破られた。

「なに?」

とついいつものように振り返って、ハクはぎくっと後ずさった。

千尋の輝くような満面の微笑みが、今日は怖い。

「‥‥‥なに? 千尋‥‥‥」

「ハークぅ♪ あのねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどぉ‥‥」


身の危険を感じ、ハクはじりっと後ずさった。


「大したことじゃないの。ね?」

「‥‥内容にもよるんだけど‥‥」

その言葉がハクの精一杯の抵抗。

千尋に甘えられれば、彼に拒否権はない。



「あのねっ。ちょっとだけいろいろとサンプルとらせてほしいんだけど〜〜〜。血液とかたてがみとか肉とかっ」






「ハクー、どこ?」

千尋がきょろきょろと辺りを見回している。

そのすぐ近くの柱の影で、ハクはぜーぜーと息をついていた。

―――――い、いくら千尋の頼みとはいえど、このままでは殺される!

とりあえずほとぼりが冷めるまでは千尋から逃げ回ったほうがよさそうだ。



そう考え事をしていたハクは、だから気がつかなかった。

千尋がハクを見つけてにっこりと微笑んでいることに。



「ハークっ! みーっけ!!」





じりじり、と。

ハクが後ずさる。

「ち、千尋? おおお、落ち着いてっ‥‥」

「落ち着いてるよ? だ・か・ら」

もう一度竜になって? と小首を傾げて頼まれると、なんでも言うことを聞いてあげたくなる。

が、今度のは自分の身の危険と引き替えである。

「ハク‥‥‥どうしても駄目?」

「いや、駄目というか‥‥その‥‥」

「お願い‥‥‥」




千尋はずるい。

自分が千尋に逆らえないのを知っていて、おねだりをしてくるのだ。

ハクは大きくため息をついて頷いた。

「わかった‥‥わかったから。‥‥あまり痛いのは勘弁だけど」

「よかったっ!!」

ぱぁぁっと顔を明るくして、千尋はハクの腕を引っ張った。

「さ、いこっ。向こうで‥‥ゆっくりとね?」









それからしばらく、ハクは顔面蒼白で仕事をする羽目になったらしい。

どっとはらい。





END

映画を見た帰り、ハンドルを握りつつ思いついてしまったしょーもないネタです(爆)。どうしてこんなネタ思いついたんだろ‥‥(爆)。「かわいい悪魔」という歌が昔あったそうですが、この千尋はハクにとってはまさしくそんな存在かも‥‥鬼門かな(まて)。