Amnesia
その3

37000HIT キリ番作品








「千を借りるぞ」と断って、女部屋から千尋を連れだしたハクは、ぺたぺたと廊下を歩いていた。

手をひかれる千尋は、不思議そうにしつつもおとなしくくっついてくる。

「あのー、どこに行くんです? ハク様」

「私の部屋だ」

何でハクの部屋に行くんだろう。

そう思いつつも千尋は素直にハクに引かれるままくっついていく。

やがて部屋についたハクは扉をあけると、千尋をひょいと抱き上げた。

「きゃあああっっっ!? な、何するんですか!?」

「何って‥‥いつもしていることだよ?」

「い、いつもって‥‥!?」

真っ白になっている記憶を何とかたぐり寄せようとしていた千尋は、ちゃっかりと用意してあった布団に押し倒されてまた悲鳴をあげた。

「は、は、は、ハク様っ、冗談はっ‥‥」

上からのぞき込むハクの髪が、さらっ‥と千尋の頬にかかる。

少しでも動けば唇が触れてしまいそうなくらい近づかれ、千尋はただ間近に見える碧の宝石を見つめ返すしかできない。

「いつもしていることだよ‥‥記憶はなくとも体は覚えているものだと言うし。これがきっかけで思い出せばそれに越したことはない‥‥」

「い、いやだから何をするっ‥‥んっ‥‥」

千尋の言葉は、ハクによってふさがれて途中で消えてしまう。

その後に聞こえてくるのは、意味をなさない言葉ばかり。




その声は、夜遅くまで聞こえていた。












朝。

泥のように眠っていた千尋は節々の体の痛みによって意識を取り戻した。

「ん‥‥」

身を起こすと、体にかかっていた白いシーツが滑り落ちる。

下を見て、千尋は真っ赤になってあわててシーツを引き上げた。

「‥‥目が覚めた?」

はっと隣を見ると、すぐ隣にハクがいた。

いたずらっぽく微笑み、見上げてくるハクの姿は今の自分と一緒。

「‥‥あ、あ、ああああああ!!!?」

ハクを指さしたまま次の言葉がでてこない千尋に、ハクは身を起こした。

「あんまり大声出すと皆起きてくるよ。まだ朝早いからもう少し眠っててもいいと思うけど」

「ななななな、なんでハクがいるの――――――――っっっ!!? あ、あたし、階段から落ちたはずよね!?」

その言葉にハクはにっこりとほほえんだ。

「記憶‥‥‥戻ったようだね」

「記憶?」

わめいていた千尋は、その言葉にぴたっと動きを止めた。

「そう。階段から落ちて、千尋は記憶を失ってたんだよ」

「わ、私が‥‥記憶を??」

どうやら記憶が戻ることで、記憶を失っていた時のことを反対に忘れてしまったらしい。

「そう‥‥‥大変だったんだよ。色々と方法も考えて‥‥‥」

そう言いつつハクは千尋の頬に指を沿わせた。

「でもこうして私を思いだしてくれたから、よしとしようか」

「‥‥まさか、私が記憶を取り戻したきっかけが‥‥そ、その、コレ‥‥‥だとは言わないよね?」

顔を真っ赤にしつつ千尋は寝乱れた布団を指さす。

その仕草にハクはふふ‥と笑みを漏らした。

「何なら試してみようか。今度はきちんと覚えていられるように‥‥」

いきなり千尋を押し倒して来たハクに千尋は悲鳴をあげた。

「ちがぁぁぁぁあああ―――――うぅ―――――っっっ!! きゃ――――!!!」

その悲鳴が別の声に変わるまでに時間はかからなかった。







「‥‥ん?」

銭婆のふとしたつぶやきに、カオナシが「あ?」と声をかける。

「いや‥‥何でもないよ」

止まってしまった編み物を再び続けようとして、銭婆は息をついた。

「千尋の記憶は戻ったのかねぇ。ハク竜に渡した薬があれば、すぐに戻るはずだけど‥‥」

「あー‥‥」

「後で様子を探りに式神でもとばしてみようかね」

銭婆はそう言ってカオナシに微笑みかけると、再び編み物に目を落とした。







END


37000キリ番作品です。いやーきっかけはすぐに思いついたんですけど「記憶をどうやって取り戻すか」というので悩んでしまいました(^^; ハクがとった手段のおかげで一気に14禁くらいになりましたけどっ(汗)。でも指定しないワルな私(爆)。結局は銭婆の薬のおかげで治ったんじゃーんハクがしたことは無駄じゃーんと思った人は、純粋です。ピュアです。その心を大事にしましょうね(爆)。




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