ある日の油屋の一日
その1

7777HIT キリ番作品






今日も油屋は満員御礼。

従業員が忙しそうに働く姿のなかに、千尋の姿があった。

「セーン! 早く、早く! ぼさっとしてないで!!」

「わかってますってばー!!」

これも今や油屋でよく見かけられる光景となりつつある。

が。

その近くに見え隠れする筈のハクの姿はなかった。




「ハク様がお帰りになるのはいつだったかな」

兄役の言葉に青蛙が答える。

「ええと、明後日にはお帰りになるかと」

「そうか‥‥」

そして二人して「はぁ」と溜息をつく。

「‥‥坊様はどうなさっておられるのでしょう?」

「今のところは湯婆婆様の監視がある為かおとなしくしておられる」

湯婆婆の部屋がある方向――――天井を見つめ、二度目の溜息。

「ま、まさか‥‥あの、あれ、仮面の‥‥‥」

「カオナシか?」

「そうです、そのカオナシは姿を現してませんよね?」

「今のところは見ておらぬな」

今度は玄関の方を見て、三度目の溜息。

「‥‥‥ハク様がおられたらおられたで怖いんですけど、おられないならおられないでこれまた緊張しますね‥‥」

「千に何かあった場合、我ら従業員の安全は保証されんからのぅ‥‥」

たまたま近くをぱたぱた走っていく千尋の姿を見つめ、二人はまたもや溜息をついた。





お得意さまである火の神の元へとハクがどうしても行かなくてはならなくなったのは数日前。

そしてまずハクが思ったのは、自分がいない間の千尋の事だった。

千尋にいくら言い含めておいても、坊が何か行動を起こしたならば押しとどめるのは不可能だろう。

千尋自身は何の力ももたない普通の女の子なのだから。




最初に湯婆婆にそれとなく掛け合い、坊がむやみに出歩かないようにと監視を強めておく。

そしてカオナシの方はお得意さまのところに向かう途中に銭婆の元にいき、ちょっとばかり脅しをつけておく。

ちょっかい出しそうな客に千尋を近づけないようにとの配慮は、父役や兄役に任せる。(もし何かあった場合には命の保証はないとの脅しはもちろんつけてある)




そこまで根回しをしておいて、ハクはやはり何となく片手落ちを感じて考え込んだ。

「‥‥‥そうだな」

とある考えにたどり着き――――その考えの良さに、ハクは1人笑みを浮かべた。






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