Boys are sensitive age
その1






カオナシは、無言でせっせと編み物をしていた。

いや、元々しゃべれないのだから、無言は当然なのだが。

千尋が去っていってしまってからというもの、ずーっとカオナシはひたすらあんでいた。

銭婆の手伝いもあったから、その手伝いをしている時はさすがに編めなかったが

自分の時間が出来れば座ってずっと編み物をしていた。


編んで

編んで

編んで
編んで
編んで
編んで
編んで
編んで
編んで(こうなるとカオナシはすでに自分の世界に浸っているので銭婆が話しかけても無駄である)
編んで
編んで
編んで
編んで
編んで


編んで



そうして、気がついた時には、長さ数十メートルにも及ぶようなマフラーができあがっていた。

さすがの銭婆もできあがったものを見て(色んな意味で)溜息をついた。

「初めてにしては上出来だけど‥‥あんた、これをどうする気だい?」

銭婆の家の実に半分を占領しているマフラーを見つめ、カオナシは申し訳なさそうに「あー」と言いながらうなだれる。

「‥‥‥もしかして、あの子にあげるつもりなのかい?」

あの子。

言われてカオナシの表情がぱっと輝いた(ような気がした)。




あの子。

千尋という名の娘。

千尋に初めて優しくされたカオナシは、一目でフォーリンラヴ。

ストーカーも真っ青の行動を繰り返し、千尋の後を追いかけて来た結果――――こうして銭婆の家でお世話になっている。

あれからもうかなり時間もたってるから、落ち着いたと思っていたが

なかなかどうして

カオナシは一途にず――――――っと千尋を想い続けていたらしい。

まぁ、すぐに忘れてしまうような想いならば、あそこまで執拗に千尋を追いかけ回したりはしないだろうが。




「まぁ‥‥作ったのはいいけど、おまえこのマフラーどうやって渡すんだい?」

こんなに長いと首にまくどころか全身に巻いたってまだまだあまりそうだよ。

銭婆は口に出してから、しまった、と口を押さえた。

カオナシが、泣きそうになっている。

ふるふると震えているのは泣く寸前だ。

坊ほどの脅威はないが、それでもまずい。

彼の場合は、一度落ち込むと、はてしなく奈落の底に落ち込んで何日も戻ってこなくなる。

その間、仕事はすべてストップ。

今や銭婆の家の貴重な働き手となっているカオナシに落ち込まれるのは非常に困る。

「わわわ、わかったわかった。あたしが何とかしてあげるから、だから泣くでないよ」

銭婆はよしよしとカオナシをなだめ、それから超長いマフラーに視線を向けた。



――――とはいえど、どうしようかねぇ。

いくら銭婆とはいえど、向こうの世界にはそうおいそれとは行けない。

それがこの世界の掟だからだ。

しかし、理由があれば別。

何事もすべて理で成り立つこの世界ならではの、抜け道。

きちんとした理さえあれば、向こうの世界との行き来は簡単に出来るのだ。

もう自分の家族の1人となってしまったかわいいカオナシのために、銭婆は人肌ぬぐことにしたのであった。