大宴会
その1

100000HIT キリ番作品









年中無休の油屋にも休みはある。

年末年始は営業する為に、年末差し迫る寸前の時期に忘年会なるものが催される。

守銭奴で有名な湯婆婆の年一回だけの大盤振る舞いにこの日ばかりは皆無礼講で大騒ぎをするのである。



「たくさん食っとけよ? この日を逃すとまたひもじい日がずっと続くんだからなっ」

というリンの言葉が全ての従業員を代表した言葉であろう。

この油屋できちんとした食事にありつけているのは釜爺くらいなものである。

「はーいっ!」

自分の家に帰ればきちんとした食事にありつける千尋であったが、湯屋で働いている時にはひもじいのは皆同じ。

という事で千尋も大きく返事をして、しっかりと自分専用のお椀と箸を用意してリンにならう。

「千」

用意をして今か今かと待っていた千尋を、兄役がよびとめる。

「湯婆婆様からだ。今回の宴会に是非参加したいとおっしゃられていたお客様がご到着だそうだ。千、おまえがご案内しろ」

「は、はい」

一体誰だろう、と思いつつも、リンに自分のお椀と箸を渡す。

そしてぱたぱたと玄関に走っていく――――――と。



「来た来た。待ちわびたぞ、千」

「Hi」

その二人が一緒に立っている図を、まず目が拒否し、ついでに脳も拒否していたらしい。

「‥‥‥千、何故ぼうっとしておるのじゃ」

「ダイジョブ? セン」

目の前で手をひらひらっとされて、千尋ははっと我に返った。

―――――そして

「な、なんであなた方が一緒におられるんですかっ!?」

まず最初に思った疑問を口にしたのだった。

それに対しての返答は。

「そこで会ったから」


そこに立っているのは木花咲耶姫命と、太陽神ルゥであった。







「数度見かけた事があるので顔は知っておる。のぅ?」

咲耶がそう言うと、ルゥは愛想良く「ハイ」と返事をする。

「サクヤはとても仲良くしてくれるヒトの1人」

「そ、そうなんですか‥‥」

「今日は宴会と聞いてな。湯婆婆から来ても良いと聞いたので参ったのじゃ。千、案内してくれるか」

「は、はぁ‥‥分かりました‥‥」

「ヨロシク、セン」

妙に上機嫌の二人にそう言われ、千尋は引きつった笑顔を向けながら、自分に真っ先に案内を振ってきた兄役に対して愚痴をこぼし続けていた。













二人を案内し終えてホッとしている千尋のところに、リンが慌てた様子でやってきた。

「せ、千っ! 大変だっ」

「な、なんなの?」

「奴が来たぞっ! アイツまで来るなんてっ」

リンの言う"奴"が誰なのか。

それを一瞬で理解して、千尋は乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。





「あー」

「もうすぐ千は来ますから、もう少々お待ち下さい」

玄関でそう宥められているのは、カオナシ。

「あ、来たようだよ」

隣に立つ銭婆の声にカオナシがその仮面の顔を向けた。

「あー」

カオナシが嫌いな訳ではない。

が。

「‥‥ようこそいらっしゃいました」

自分のすぐ後ろから聞こえる声にぎくっと振り返ると。

ハクが千尋のすぐ後ろに立っていた。

「お聞きしております。お座敷はこちらですので、どうぞ」

そう言いつつ、ハクは千尋をカオナシの視線から隠すようにさりげなく立ち位置をずらすと、後ろ手で「向こうに行け」と合図してきた。

でも‥‥と躊躇していると、ハクはさっきよりも強く「行け」と合図してくる。

仕方なく、千尋は銭婆とカオナシに向けてぺこりとお辞儀をしてきびすを返した。

「‥‥あー」

とたんに、カオナシが不機嫌そうな声を出してくる。

その声に千尋は思わず足を止めてしまった。

「‥‥千は別の仕事がありますので、私がお相手致しますよ?」

その声に周りにいた従業員たちが皆ざっ‥‥と2メートルはひいた。

大抵の事なら驚かなくなっていた千尋も、その声の低さに思わず後ずさってしまうほど。

「さ、行きなさい」

その言葉を幸いにと、千尋はすたこらとその場から逃げ出したのであった。


―――――後の事はしーらないっと。