大宴会
その2

100000HIT キリ番作品








宴会場はにぎわっていた。

よく見かける神様の顔もあり、千尋が見覚えない神様の姿もある。

その中に混じって、咲耶やルゥの顔もあった。

「千、こっちの料理をお願い」

「あ、はいっ」

おねえさまから料理を手渡され、千尋はそれを受け取って宴会場へと運んでいく。

千尋が言われた通りの場所に料理を置くと――――その向こうにルゥがいるのが見えた。

目が合うとにこっと微笑んでくる。

思わずつられてにこっと微笑むとルゥが手招きして来た。

「はい、何でしょう?」

近寄ると、ルゥは千尋の手を取ってきた。

「セン、仕事終わったらパーティに出る?」

「え、ええ。今日は無礼講だそうですし」

「ブレイコウ?」

「あ、えーと」

少ないボキャブラリの中から探してみる。

「身分とか上下の関係とか、そういうのをなしにしてみんなで騒ぐ宴会‥‥‥パーティですよ」

「ならセン、私のところにおいで。色々話聞きたい」

「え‥‥」

一瞬視線でハクがいないかどうか探してしまうあたり、自分でも小心者だと思ってしまうが仕方がない。

――――ハクの姿はない。

ホッと息をついた瞬間、咲耶とばっちり目が合ってしまった。

この人がいたんだった!!

「‥‥どうかしたか? 妾の顔に何かついておるか?」

ニヤニヤ微笑む咲耶は、絶対に何か企んでいるとしか思えない。

「‥‥い、今の、ナイショですよ?」

「何が内緒なのじゃ?」

「だーかーらっ」

突然背後が暗くなったのに気がついて、千尋はぎくっと体をすくめた。

ルゥはきょとんとした顔で千尋の後ろを見ている。

後ろにハクがいるのは、火を見るよりも明らかだ。

「千尋‥‥‥後で話があるから、時間あけておくように」

いきなり耳元で、ルゥや咲耶には聞こえないようにと囁かれる。

さっきのカオナシへの声ほどではないが、それに近いような低い声で呟くハクに、千尋はただ「はい」としか言葉を返せなかった。

「コハクも相変わらずじゃのぅ」

いつの間にかルゥの隣に来てハクと千尋のやりとりを面白そうに眺めていた咲耶が、ニヤニヤと笑いつつ話しかけてくる。

「その様子では、ムシがつかないようにするのも大変そうじゃな」

明らかに面白がっている咲耶の言い方に、ハクはムッとした表情を隠しきれない。

「よけいなお世話です」

そして

「私がムシとは酷いです、サクヤ」

ムシ扱いされてしまったルゥは苦笑をするしかなかった。







宴会は始まったものの、下っ端の下っ端である千尋はなかなか宴会に加われない。

さっきから坊に「来い」と言われているものの、皆が揃っている宴会場に座っているのは色んな意味で怖くて出来ず、こうして走り回っているほうがまだ精神的にラクだった。

だから、千尋はさっきから料理を運ぶ役目を自ら買って出ていた。

――――さっき遅れて来たウズメ(天細女神)が、今度はストリップではないものの、踊りを披露しているのもあったが。

―――さすがに、自分と同じ顔の女性が悩ましく踊るのは心臓に良くない。



何度目かの料理の運搬をしていた時。

「それが料理か?」

突然話しかけられて、千尋はえっと辺りを見回した。

「ここじゃ」

料理を抱えている為に見えなかったが、ひょいと料理を持ち上げると―――――

「わらわも手伝おうか?」

ミズハ――――罔象女神がにっこり微笑んでいた。

何時の間に来たのか―――とちょっと動揺が隠せない。

「いえ、大丈夫です。ミズハ様も宴会場のほうにお戻り下さい」

「千、重そうじゃ」

「もうすぐそこですから」

そんな押し問答を繰り返していると。

「ミズハ殿」

咲耶の声が聞こえて来た。

「ここにおったか。妾が今回は伊邪那美命殿から仰せつかっておるのじゃから、あまり遠くに行かぬようにな」

「分かっておる」

咲耶は千尋に気がつくと、さっきとはうって変わって優しい笑みを浮かべた。

「一つ持とう。今日は無礼講であろう」

千尋が返事を返す前に、咲耶がひょいとお膳を一つ取り上げてしまった。

「あ、あの、咲耶様っ?」

「異形のモノ達の中でただ1人の人間としては、色々気苦労も多かろう。宴会に加わりにくいとは思うが加わってやれ」

「え‥‥」

「この宴会は、いつも大変な思いをしている従業員へのものでもあるのじゃ。そなたもここの従業員である以上、加わらねばならぬのじゃし。さきほどからコハクが目でそなたを捜しておったぞ」

ハクの名を出されて、千尋の頬が微かに赤くなる。

「このお膳は後から運ぶ故、そなたは行くが良い」

「は、はい‥‥」

ハクの名を出されて気が急いたのか、千尋は足早に去っていく。

それを見送る咲耶とミズハであったが――――――


「本当に仲が良いのじゃな、あの二人は」

ミズハがつまらなさそうに呟いた。

「見ていると飽きぬ。ミズハ殿も見てみれば良いのに‥‥どうもそなたは所有欲が強いようじゃの」

それも退行してしまったゆえか‥‥と呟く咲耶に、ミズハはぷうっと頬を膨らました。

「ミズハはつまらぬ」

拗ねてしまったらしいミズハに苦笑し、咲耶はすたすたと歩き出した。

「早う来ぬとミズハ殿のものまで妾が食ろうてしまうぞ」

「それは嫌じゃ!」

着物の裾を踏みそうになりつつも、ミズハは慌てて咲耶の後を追った。