大宴会
その3
100000HIT キリ番作品
宴会は盛り上がっていた。 千尋は末席に席を与えられていたが、その周りは坊やカオナシ、リン、ルゥ等々と錚々たるメンバーが勢揃いしていて、千尋は居心地が悪い。 おまけに中心者がいる上座の方からは、そこから抜け出せないハクの視線がかなり痛い。 咲耶に言われて来たものの、相当居づらい。 「さ、千」 リンから杯に何か注がれて、千尋はハクの視線を気にしつつ何気なく口にして――――思い切りむせた。 「ごほっ‥‥こ、これお酒!?」 「ああ。一気にぐいっとイケよ?」 「無理だよっ、私まだ未成年‥‥‥」 「いーから飲め飲めっ」 リン自身相当飲んでいるらしく、かなり呂律が回っていない。 とりあえず一杯だけ飲んで、酔いが廻る前に――――と千尋は這々の体でそこから逃げ出した。 「こらぁー、逃げる気かっ」 「千、何処に行くんだっ」 という皆の声に「すぐ戻るからっ!」という言葉を残して。 庭までやってきてそっとガラス戸をあけると、かなり寒い北風が入り込んできた。 が、それすらもアルコールがまわって火照った体には心地よい。 「千尋」 その声は振り向かなくても分かった。 「お疲れ様‥‥‥いつもよりも疲れたろう?」 ハクが隣に立ち、千尋の肩に手を回して来る。 酔いがあった為か、千尋は素直にそれに身を任せて来た。 「ぅうん、大丈夫‥‥‥でも、これだけお客様や従業員が集まると壮観だね」 「そうだね‥‥‥湯婆婆もずいぶんと奮発したものだと思うよ」 「また明日からはひもじい生活に逆戻りかぁ」 ぼやくような千尋の物言いに、ハクがくすっと笑みを漏らす。 「千尋はここの生活が楽しい?」 突然問われて千尋はとまどいを隠せない――――が。 「楽しいよ。確かに仕事は大変だけど‥‥色んな事が経験出来るし、皆いるし‥‥それに」 ちょっと言葉を切る。 「‥‥ハクがいてくれるし」 ハクは千尋の肩に回した腕に力をこめた。 「私も千尋が来るまでは、この油屋で働くのが苦痛でならなかった。けど‥‥千尋がいてくれるから楽しくなってきているよ」 「ハク‥‥‥」 ハクのもう片方の手が千尋の背に回る。 そのまま二人の影が近づき―――――重なる。 「――――ずるいのじゃ」 その声にはっと千尋が身を離そうとするのを、ハクがすんでの所で止めた。 すぐ近くのふすまから、ミズハや咲耶、ルゥ、リン、坊、カオナシ等々が顔を出してこちらを見ている。 今の声はミズハらしい。 「ミズハも接吻したいのじゃ!」 「ハクばかりずるい!」 どうも精神年齢状態が同じらしい坊とミズハがしきりと言い立てるのを、咲耶が肩をすくめて見つめている。 「全く、情緒というものを知らぬ子たちじゃのぅ‥‥」 「There is no emotion in peeping‥‥(覗きに情緒はないけど‥‥)」 「あー‥‥あー、うー」 カオナシも何か(懲りずに)ハクに訴えているが、周りには何を訴えているのかは分からない。 頼みの綱のリンも、この状況にお手上げなのか何もしようとしない。 いつもなら怒鳴り返すハクも、ミズハや咲耶達にそれが出来る筈もなく、千尋を抱く手がふるふると震えているものの、それ以上何もしようとしない。 「‥‥‥ここは寒いですから、とりあえず部屋の方にお帰りになられたらどうですか?」 「嫌じゃ」 「嫌だ」 ミズハと坊が同時に答える。 よくハクがブチ切れなかったものだ、と千尋は変なところでハクに感心していた。 「‥‥ミズハ様はともかく、坊。湯婆婆様が探しておられるのではありませんか?」 「バーバは関係ない」 すぐここに千尋や神々がいなかったら、その場で攻撃開始をしてもおかしくはなかったかもしれない。 と思うほどにハクが本気で怒っている。 それに気づいたのはやはりというか、咲耶であった。 「さぁ、一度戻ろうかミズハ殿。他の衆も戻ろうぞ。ここにいつまでいても話は進展しないのでな」 咲耶に言われるとそれでも‥‥とは言えないミズハは、仕方なくきびすを返した。 坊もしぶしぶそれに従う。 ぞろぞろと帰り始める皆の一番最後で、咲耶が「ごゆっくり〜」とばかりに手を振って帰っていくのに、千尋は反射的にぺこりと頭を下げた。 「‥‥‥絶対に咲耶姫がけしかけたに違いない」 等とぶつぶつハクが呟いているのに気がついて、千尋はハクを見上げた。 「そ、そうかな‥‥」 「そうに決まっている」 そう断言して、ハクは千尋の肩を強く抱いた。 「い、いたた。ハク、痛いよ」 「後で話がある、と言っていたよね?」 「え?」 「‥‥‥覚えていないの?」 そういえば、ルゥと話をしていた時にそんな事を言われたような気もする。 だが。 「ちょうどいい。このまま話をしよう。色々とね」 「は、話って‥‥‥ハク、お、落ち着いて。落ち着いて、ね?」 「落ち着いているよ、私は。だから千尋と色々話がしたいと思っているんだ」 「落ち着いてなぁぁぁいー!! 絶対にそのまんまなだれ込む気でしょっ」 「まさか。千尋の同意なしにそんな事はしないよ」 等と会話をしつつ、千尋がいつの間にかハクの部屋に誘導されてしまった事は言うまでもなく。 そして二人がそのまま宴会場に戻らなかったのもまた言うまでもない事であった。 「来年の宴会ではどうやってからかってやろうかの」 皆酔いつぶれてしまった宴会の席で、ただ1人正気を保っていた咲耶姫は、そんな事を口にして1人笑みを浮かべていた。 END |
記念の100000キリ番作品です。10万ヒットに相応しく、今までこのサイトで出てきたオリジナルキャラが色々出てきました。今回出した辺りは咲耶姫を中心の時間軸で考えていたので割と接点は作りやすかったかもしれません。リクも大宴会という事でしたので、忘年会っぽく‥‥。しかし最後まで酔わなかったのはやはり咲耶様という事で。お後がよろしいようで(良くない)。 |