異邦人〜エトランジュ〜
その1
‥‥‥ひっく‥‥っくひっく‥‥ 誰かが泣いてる。 子供の泣き声。 何がそんなに悲しいの? はっ‥‥と目を向けると、視線の向こうに誰かしゃがみ込んでいるのが見えた。 ―――――だぁれ? そっと近づくと、その子ははっと顔を上げた。 黒髪の、女の子。 ポニーテールが風にそよいでいて。 私をびっくりしたように見つめている。 ―――――これは、私だ。 私がいる。 まだ、10歳の私。 10歳の私が、15歳の私を見ている。 「―――――誰?」 まだ声変わりする前の私の声でそう訊ねられた瞬間。 私はぱちっと目を開けていた。 「‥‥‥うー」 周りのおねえさま達やリンはまだ眠っている。 千尋はうめきつつ布団から這い出すと、水干を手にとって起きあがった。 「‥‥変な夢見た」 夢の中で昔の自分に会うなんて。 しかも、この油屋に最初に来た時の自分。 今から思うと妙にかわいげのない子だったと思う。 ハクがよく見捨てなかったものだ。 そんなことを思いつつ、千尋は髪を結い上げてあの髪留めで髪をくくると、ふすまをあけてそっと外にでた。 朝食までにはもう少し時間がある。 少し散歩でもして気分を変えよう。 |