不機嫌注意報
その1
10000HIT キリ番作品
「おい」 しーん。 「おいってば」 しーん。 「おいっ!! 思いっきり無視してんじゃねぇよ!!!」 耳をつかんで怒鳴りつけると、さすがにその相手も無視出来なくなり、こちらを向いた。 「‥‥‥さっきから一体なんだ、リン」 耳をさすりつつ、ハクは不機嫌そうにリンを見つめた。 「そりゃこっちの台詞だ」 2人、ばちばちっと火花を散らすがごとく睨み付ける。 「あんたにさ、ちょっと言いたい事があったんだよ」 「言いたいこと‥‥‥どうせまた千尋の事だろう」 「よくわかってんじゃん」 不機嫌な者どうし、ばちばちと火花を散らす。 ぎゃあぎゃあと言い争いをしていた2人に。 「リンさぁ〜〜〜ん! ハクぅ〜〜〜!! 何してるのぉ〜〜〜??」 ちょうど片づけの途中に通りかかった当の本人、千尋が脳天気な声をかけた。 「なんでもねぇよ」 不機嫌に返すリンを見つめ、それから千尋はハクに視線を向けた。 ハクの方も眉間にしわを寄せて、ふんとリンから視線を逸らす。 「‥‥どうしたの、2人とも喧嘩したの? ‥‥ほんと、2人とも仲いいんだから」 「「良くない!!!!」」 千尋の言葉にハクとリンの声がかぶる。 その様子に千尋は大笑いを始めた。 「ほんとっ、仲いいなぁ2人とも〜〜〜! 羨ましいなぁ私」 ほんとに。 ほんとうにそう思いますかアナタ? 今だけ、リンとハクの気持ちは一つになっていた。 「じゃあ、2人の邪魔しちゃ悪いから、私行くね♪」 語尾に「るん♪」と音符をつけて千尋はぱたぱたと走っていく。 取り残されたハクとリンは、互いの顔を見つめた。 「‥‥‥‥邪魔しちゃ悪い、だってよ」 「‥‥冗談」 互いを嫌っている、という点においては、おそらく千尋と以上に気の合う2人であった。 「‥‥‥で、結局何で喧嘩してたの? 2人‥‥‥」 ハクの部屋でお菓子をつまんで食べつつ、帳簿の書き付けをしているハクに話しかける。 お菓子があるからおいで、と誘ったのはハクなのだが。 お菓子に釣られてついつい来てしまう千尋は、すっかりくつろいでいる。 「ああ‥‥」 そんな事か、とハクは筆をおろした。 「ちょっと、ね」 「ちょっと?」 千尋がわくわくした様子で知りたげに近寄ってくる。 「なに? 私には内緒の話??」 どうも千尋の中では「リンとハクは仲良し」という図式ができあがっているらしく、どんな楽しい事をするんだろうと期待しているのが手にとるように分かる。 千尋が楽しそうなのは嬉しいのだが、それが自分とリンだというのがどうも気にくわない。 しかし、今は部屋で2人きり。 とりあえずは邪魔する者もいない。 「知りたい?」 ハクがそう言うと、千尋はこくこくと頷いた。 「じゃあ‥‥」 くぃっと千尋の手を引っ張って。 ハクは器用にそのまま千尋を引き寄せると畳に押し倒した。 千尋の方は今何が起こったのか分からずキョトンとしたまま目をぱちくりさせている。 ハクが顔を寄せて来た事で初めて気がつき、千尋はじたばたと暴れ始めた。 「ち、ち、ちょっと! ちょっと待ってっ! 何で喧嘩の理由を聞くのに、私こういう格好になるわけ!?」 「込み入った内容だから、あまり人には知られたくないんだよ」 「だったら耳うちすれば済むじゃないの〜〜!!」 「耳打ち、ねぇ‥‥」 にっこりと微笑むハクに、千尋はまたもや自分が罠にハマった事を知った。 千尋は耳が弱い。 息を吹きかけられて笑わされるなど日常茶飯事。 リン達ならばそれでまだ済むが、ハクの場合はその続きがあるので「用心しろ」とリンから何度も言われていたのに。 学習能力がなさすぎる千尋である。 「耳打ちすれば‥‥いいんだね?」 意地悪く微笑むハクから逃れようにも、畳に押し倒されて上から覆い被さられている状態でどうやって逃げろというのか。 大ピンチである。 「い、いや、この状態ではし、して欲しくないかな〜〜〜‥‥なんて」 「もう遅いね」 ぴしゃりと言われてあぅ‥‥と千尋は縮こまった。 小さくなってしまった千尋の頬にそっと指を這わせると、千尋がびくびくっとするのが分かる。 もうちょっと困った顔が見たくて、ハクは千尋の耳元に唇を寄せた。 「このくらいなら‥‥大丈夫かな?」 優しく囁くと、千尋は変な声をあげてコロコロッと転がって逃げようとする。 それを片手をついて阻止すると、千尋は本当に困り切った顔でハクを見上げた。 「‥‥ハクのいぢわる〜〜〜‥‥」 「意地悪で結構」 いつもはリンに千尋をとられてしまっているのだから。 おそらく、ハクよりもリンの方が持ち場も同じ、部屋も同じな分千尋とともにいる時間は長い筈だ。 嫉妬と言われようがなんといわれようがかまわない。 こんなわずかなともにいられる時間に、千尋に何をしようと自分の勝手。 自分勝手もここまでくれば立派な価値観である。 「‥‥どうしたら、放してくれるの?」 無傷では逃げられないと判断したのか、千尋は交換条件を出して来た。 少しだけ、賢くなったらしい。 ハクは少し哀しそうな顔をしてみせた。 「‥‥そんなに、私から離れたい?」 当然「演技」であるが、千尋はコロッとそれに騙された。 毎度毎度この手でほだされているにも関わらず、である。 「う、ううん‥‥そんな事、ない‥‥ただ、ちょっと‥‥恥ずかしくて‥‥そ、それだけよ‥‥?」 「なら問題はないよね?」 「えっ! いや、問題あるとかないとかじゃなくって〜〜〜!!!」 ハクの唇が首筋に当てられて、千尋はその心地よさに思わず声を漏らした。 |