不機嫌注意報
その2

10000HIT キリ番作品





「ハク様、ちょっとお聞きしたい事があるのですが‥‥‥‥」

父役が扉を開ける。

千尋は押し倒された格好のまま見上げる事になり、ちょうど反対に映る父役とばっちり目があってしまった。





「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」



奇妙な沈黙。



「‥‥‥えー、コホム」

父役は落ち着かない様子で咳払いした。

「ま、また後にいたします。‥‥‥‥ごゆっくり」

それだけ言うとぴしゃんっと扉をしめて、父役は出ていってしまった。

「ち、ちょっと―――――!!! この状態を見て言うのはそれだけ―――――!!!?」

助けてくれるとばかり思っていた父役が出ていってしまい、千尋は慌ててじたばた暴れ始めた。



この状態で助けに入った場合、間違いなく矛先は自分自身に降りかかる。

ハクと千尋は自他ともに認める恋人どうしであるから、プライベートな時間にどんな事をしていようとそれは他者には関係ない事でもあるし。

それになにより、後でハクからどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。

父役が千尋の貞操よりも自分の身の安全をとったのは、しごく当然の事といえよう。



「父役も気が利くようになった」

しごく満足そうなハクを押し戻そうと千尋が頑張っている。

が、体格から何からすべて千尋よりも立派なハクがそのくらいで動じる筈もない。

「きゃ――――、ちょっと、ちょっと待って〜〜〜!!!」

ハクといずれはこういう事もするんだろうという予測や期待はあるが、女らしさが皆無な自分にはまだ早いと思ってるし、ちょっぴり怖い。

ので。

激しく抵抗する事になる。

「まだだめ〜〜〜〜〜!!! も、もちょっと私が大人になってから〜〜〜!!!!」



とじたばた抵抗していた千尋は、突然ハクがぐったりと崩れ落ちたのに気がついて仰天した。

「ハク!!!?」

「ったく、鼻の下のばして――――男ってのはだからヤだね」

その後ろにリンが立っているのに気がついて、千尋はまたもや仰天してしまった。




「い、いつ入って来たの‥‥?」

「さっき。あんまりにも帰りが遅いから心配してたんだけど、案の定だな」

どうやってハクを気絶させたのだろう。

と思った千尋がリンの手元を見ると、そこには立派な金属バット。


普通、死にます、そんなんで殴られたら!!!!!!!!


「さ、帰ろう。明日もまた仕事だぞ」

「は、は、ハク大丈夫かなぁ?」

「大丈夫大丈夫。死にゃしねェよ」

昏倒するハクを置き去りに、リンと千尋は従業員室へと戻っていくのであった。






「‥‥‥で、結局何で喧嘩してたの? 2人‥‥‥」

ハクの部屋で聞いた同じ事を、千尋はリンにも聞いた。

どこからかかっぱらって来た饅頭を「ほれ」と千尋に渡し、リンは饅頭にかぶりついて答えた。

「ん? ああ、アレね。千尋を女にするにゃまだ早ェって言ってたんだよ。おまえ、まだ生理も不順だろ? 何焦ってんだか‥‥あの男」

饅頭にぱくっとかじりついていた千尋は、口の中のものを吹き出してしまった。

「きったねぇなっ!」

口元を拭い、千尋は真っ赤になった。

「ど、ど、どうしてふ、不順だって知ってるのリンさん!!!!」

「だってよぉ‥‥」

リンは指を折って数え始めた。

「この前来たって言ってたの、2ヶ月半前なのにまだ来てないだろ。おまえのその様子じゃまだ経験はなさそうだし‥‥」


従業員室から千尋の悲鳴が聞こえたのは言うまでもなかった。



次の日にハクがリンにリターンマッチを挑んだとか挑まなかったとか。




油屋に平穏が訪れる日はまだまだ遠そうである。




END

10000HITキリ番作品です。喧嘩するほど仲がいいというのはうちんトコのハクとリンの間にも適応されるんでしょうか?(笑) あんまりいいデキではないんですが、捧げさせて頂きますm(_ _)m




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