桜の幻影
その1











「千尋……本当に行くのか?」

すっかりるんるん気分な千尋に、ハクは不安を隠せない。

「うん。だって面白そうじゃない?」

「…………」

「大丈夫よ。見に行くだけだから」

その見に行くのがまずいんだ、というハクの説得は、千尋の耳には届かない。





この頃テレビでは「陰陽師と怨霊の対決!」なんていう見出しの番組が流行りのように放映されている。

なかでも千尋の興味をそそったのは、いつまでたっても散らない桜の木、というものだった。

その番組では陰陽師が桜の木に憑いていた怨霊を祓った、という事で一件落着していたが。

「……あのくらいで祓えるほどのものだったらあそこまで大事になってはいないと思うけどね……」

一緒にテレビを見ていたハクのその呟きを、千尋が耳にしたのが運の尽き。

「一度見に行く!!」

と千尋はすっかり行く気満々になっていたのであった。





「私は仕事があってついて行けない……本当に大丈夫か?」

一応千尋に魔よけのまじないは施したものの、もし何かあった時に千尋の身を守る術にはならない。

ほんの気休め程度だ。

(それ以上強い術は、千尋の体に悪影響を与える為に出来なかったのである)

「ヘーキヘーキ! 帰って来たらお土産話、聞かせてあげるからね!」

ハクの制止を振り切るように、千尋は喜び勇んで行ってしまった。

それを見送り、ハクは溜息をついた。

「……大丈夫だろうか……」

不安が、とれない。

ハクいつまでも千尋の去っていった方向を見つめていたが――――やがて吹っ切るようにきびすを返して、歩き出した。










仕事も終わり、ハクは自分の住居と定めた場所に戻って来た。

日ももうすぐ落ち、夜が来ようとしている。

「………遅いな」

まだ帰って来ない。

日が落ちるまでには帰って来るという約束だったのに。

暫く待っていたがやがて待ちきれなくなったのか、ハクは龍に姿を変え舞い上がった。

場所は分かっている。

様子を見に行かなくては―――――。

不安が、よぎる。




―――やはり、無理をしてでもついて行くべきだった。




後悔が、今のハクの心を支配していた。















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