桜の幻影
その2
その桜の木はすぐに見つかった。 もう初夏だと言うのに、ピンク色の花びらをまき散らしているのだから。 すうっ……と舞い降り、ヒトの姿に戻る。 そこに千尋の姿はなかった。 しかしまだ微かに気配は残っている。 残留思念で探る事も出来るだろう。 「………………」 桜の木に手を当てて、目を閉じる。 そして――――― 「……っ!」 ハクはびくっとしたように手を離した。 【映像】が見えた。 見えた【映像】の向こうに千尋が見えたのは確か。 そして木にもたれかかるように倒れてしまう千尋の姿も。 やはり何かあったのは確かだ。 「何処に行ったんだろう……」 とにかく探さなくては。 と振り返ったハクは、驚いて動きを止めた。 「…………」 千尋が、そこに立っていた。 「……千尋」 そう呼びかけるも、千尋は動かない。 「…………おまえは、誰だ」 そう言うと、千尋の表情が笑みに彩られた。 『ワタシ ハ 桜ノ精――――』 憑依だ。 千尋の体は、今「桜の精」とやらに乗っ取られている。 おそらく千尋の精神はその下で眠らされているのだろう。 厄介な事になった。 ハクはぎり…と歯ぎしりして、千尋を―――千尋の体に憑依した「それ」を睨み付けた。 |