カエリタイ
その4









「‥‥なんで、見えて来ないのよっ」

千尋は思わず叫んでいた。

ザァァァァ‥‥と風が吹いて、草原を渡っていく。

もう時計台が見えてもいい筈なのに、その時計台すら見えて来ない。

右を見ても左を見ても、見えるのは草原ばかり。

そしてそこに立つのは千尋だけ。

頭上を見れば、丸い月が皓々と世界を照らしている。

「何で‥‥‥? 方向をまちがえたのかな‥‥」

泣きそうになる自分を奮い立たせながら、一歩一歩歩いて行く。

しかし時計台は見えない。

家も見えない。

何処まで歩いても、見えるのは草原と月ばかり。











「‥‥‥‥!?」

千尋は、はっと頭上を見上げた。

あれからかなりの時間がたっている筈なのに、月の位置が全く変わっていない。

家を出てきたのがそもそも夜中の12時頃だったのだから、もう月は沈み、そろそろ太陽が出てきてもいい頃なのに。

月は相変わらず空のてっぺんで変わらぬ光を注いでいる。

「‥‥‥うそ‥‥」

千尋はその場にへなへなと崩れ落ちた。













千尋が湯屋にたどり着く事はない

元の世界に戻る事もない

彼女があらん限りの声で助けを求めても、泣き叫んでも、誰にも届かない


どうしてこうなってしまったのか

その答えを出せる人はいない







風が永遠に続く夜の世界を渡っていく

ここにいるのは、彼女独りきり―――――――







END



なんつーか‥‥いや言い訳はしませんが、暗いですねー、ダークですねー(汗)。年度末で仕事が忙しいがゆえなのか‥‥なんつか壊れてマスね(^^;; 始めは千尋が元の世界に戻れなくなるだけだったのが、いつの間にか湯屋にも行けず元にも戻れず――――たった独りで「夜」に閉じこめられてしまう話になってしまいました。しかもハクも出てこないし‥‥敢えて救いは作りませんでした。この話の千尋は湯屋で学んだ事を遂に糧と出来ず逃げてばかりでしたので‥‥それでハッピーエンドになるというのは自分的に「何だかな〜」だったので。ちなみにBGMは「まっくら森の歌」でした。何でこんな話になったんだろ‥‥(滝汗)。




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