光を求めて
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5000HIT キリ番作品
水のなかで、それはたゆたっていた。 川の流れとともに生まれ、川とともに死んでいく。 その運命を背負わされたもの。 それが自然とともに生まれたもののさだめ。 饒速水琥珀主(ニギハヤミコハクヌシ)。 そう名付けられた彼も、その運命を背負ったものの一人だった。 はずだった。 水が次々と吸い出され、見る間に川底が見えてくる。 ガ――――――ッといううるさい機械音とともに、川底が掘り起こされる。 水を失った事で酸素を得られなくなった魚が苦しそうにぴちぴちとはねていたが、やがて動かなくなっていく。 その魚たちをもまとめて掘り起こし、その上から次々と土が被されていく。 ――――――――っっっっ‥!!! いたい くるしい いたい! くるしい! からだを引き裂かれ、内蔵をえぐり出されるような感覚が、彼を襲う。 そのあまりのいたみに彼は、意識を遠のかせていった。 「おい、おい!!」 ぴたぴたと頬を叩かれる感触で、彼は目を開いた。 「こんなところで寝てると怪我するぞ、ぼうず」 自分をのぞきこむ男に、彼はびくっと飛び起きた。 「お母さんかお父さんは何処だ? まったく、こんな小さい子をこんな工事現場にほったらかしてどこかに行くなんて、親失格だな」 人間。 そう思った瞬間、彼は男たちから逃れるように飛びずさった。 「おい、怖がるこたぁねぇよ」 「腹減ってんじゃねぇか? 何か食わせてやるからこっちに来い」 周りには工事に携わっていると思われる土建の姿をした男たちがたくさんいる。 そして彼は、さっきの自分のからだの痛みを思いだした。 こいつらが。 こいつらがわたしを。 わたしの川を汚した!! わき上がる怒りに、力をこめる。 「なんだ、ずいぶんと怯えてるなこの子」 「まぁこんなナリのヤツらを見るのなんざ初めてなんだろ。ナリは変だが雰囲気的にはどっかのお坊ちゃんだしな」 何も起こらない。 水滴一滴すらも、わき上がらない。 どうして? 何故!? 動揺した彼は、じりっと後ずさり―――――そのままきびすを返して走り出した。 「あ、おい!!」 「ほっとけほっとけ。どうせ母親がいる場所でも思いだしたんだろ」 「そうだな。今日中にここらへんの埋め立てを終了しとかなきゃなんねぇんだしな」 後ろから男たちの声が聞こえる。 どうして? どうして力が使えない!? ずっと走っていた彼は、道に転がっていた石につまづいて転んでしまった。 そのとたん、息があがってしまって苦しい事に気がつき、ぜぃぜぃと息をつく。 そして、彼は自分の異常に気がついた。 視界に入ったものに目をやり、ぎょっとする。 これは、手? どう見ても、人間の手だ。 試しに握って開いてみる。 その手は自分の思い通りに動いた。 目の前が真っ暗になるような心地で、自分の姿が映せる場所を探す。 かなり走ったところで小さい池を見つけ、おそるおそる自分の姿を映し出す―――――。 そこには、黒い髪を切り揃えた7、8歳くらいの小さい男の子が不安な面もちでのぞき込んでいるのが映っていた。 「!!」 あまりの衝撃に飛びずさり――――おそるおそるもう一度のぞき込む。 やはり、さきほどと同じ顔の子供が、自分をじっと見つめているのが見えた。 紛れもない。 自分だ。 竜の姿だった筈の自分が、人間になっている。 「‥‥‥‥う、そ‥‥」 知らずに出した声も、人間のものに変わっている。 「うそだ、うそだ、うそだぁぁっ!!!」 どんなに叫んでも、感情を吐露しても、それが力になる事はない。 声が枯れるまで泣き叫んでも、木の葉一枚揺らがせる事は、今の彼には出来なかった。 |