光を求めて
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5000HIT キリ番作品
川から弾き出された。 彼が自分の運命をそう結論づけたのは、それから暫くしてのことだった。 川の化身でもある筈の自分が、どうして川から弾き出されたのかはわからない。 こんな例があるのかどうかもわからない。 しかし 真っ先に彼が考えた事は――――自身の消滅だった。 川を失い、なおも生き続ける化身など聞いたこともない。 守るべきものを失った神の存在の、なんと哀れなことよ。 そんな神は、落ちぶれて魔物と化すしか道はない。 そのような目に遭うのは絶対に嫌だ。 どうやったら死ねる? 人間のように首をかっ切ったらそのまま死ねるだろうか。 それとも、業火に身をやつすというのもいいかもしれない。 どうして どうして どうして 頭にまわるのはそのことばかり どうしてわたしはいきているんだろう どうしてわたしはここにいるんだろう 川を失ったのに 川をなくしてしまったのに なぜわたしだけがここにいる? このまま、消えてしまいたい 頭を抱え込んだ彼の心に、何かが響いた。 ――――――‥‥て‥‥ 言葉ではない 想い 想いが、彼の心を優しく撫でる。 ――――――いき‥‥て‥ ――――――生きて‥‥‥ はじめは囁くようだったその想いが、どんどん彼の心に流れ込んでくる。 耳を塞いでも、言葉でない想いはどんどん彼の心を刺激する。 「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさぁぁいっ!!」 消し去ろうと大声で喚いても、想いは消えない。 それどころかよけいに大きく、彼の脳髄を揺さぶるかのようにとどろき渡る。 ―――――――生きて‥‥生きて‥‥‥ 「どうやって!! これ以上生きて、何の意味がある!! 川とともに生まれたのに、川とともに死ねなかった者に、これ以上生き恥をさらせというのか!!!」 彼の叫びにも、その想いは訴えるのを途切れさせる事なく、彼に伝え続ける。 ―――――――生きて‥‥生きて‥‥‥ いい加減抗うのにも疲れ、彼はへたり込んで溜息をついた。 ―――――――生きて‥‥生きて‥‥‥ その間もその想いが途切れる事なく彼に届く。 彼は溜息をついて上を見上げた。 「‥‥何のために? 何のためにわたしは生きるんだ‥‥? わたしには‥‥もう守るものはない。守るものを失って‥‥‥たった一人で生きるなんて、わたしには出来ない」 今まで同じことばかりを繰り返していた想いが、彼の心に優しく別の言葉を語りかける。 ―――――――きたるべき 時のために‥‥‥‥あなたを 必要とする ひとのために‥‥ 「‥‥必要?」 そう思った時、彼の脳裏に真っ先に浮かんだのは―――――― 靴を落とし、それをひろおうとしておぼれかけた、小さい少女。 ヒトに関わってはならないという禁を、彼はたった一度だけ。 その少女の為に破った。 覚えている。 少女は確かに、自分にほほえみかけた。 ―――――――だから、生きて‥‥ 懇願するような声に、彼はようやく立ち上がった。 「‥‥‥わかった」 立ち上がり、上を見上げる彼の表情に迷いはない。 生きてみよう。 もし、自分を必要とするものがこれから現れるのだとしたら。 今ここで死ぬ訳には行かない。 彼は歩き出す。 自らが生きる場所を求めて。 遠く離れた異世界。 そこで、彼は新しい名を貰うことになる。 ハク、という新しい名を。 END |
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5555キリ番作品です。感動して泣ける話を! という事で色々とシチュエーションを考え、自分が泣いた話を思い浮かべ(ほたるの墓は泣きましたが死にネタはちょっと(汗))、夢にしてみようかとかも考えましたが結局は過去話というネタに落ち着きました。お約束ですね〜(苦笑)。自分では感動‥‥‥しませんねぇ(汗)。自分で感動しない話を書いてはいけませんね(><)。逃げますっ。探さないでくださいっ(脱兎(爆))。 |