姫のお気に入り
その2

55555HIT キリ番作品







優しく髪を撫でる手が心地よい。

ひんやりとした手がほてった肌にちょうどいいのだ。

少しずつ意識が浮上してきた千尋は、とたんにがんがんと鳴り始めた頭に顔をしかめた。

「気がついたようじゃの」

その声に何とか目をあける。



目の前に、覗き込む咲耶の顔がある。



「‥‥‥さくや‥‥さま‥‥?」

どうしてこんなに咲耶の顔がアップなんだろう。

「人の子にはやはりあの酒はきつかったようじゃの。酒の相手はやはり琥珀に頼む事とするか」

千尋はぽぅっとその言葉を聞いていたが――――やがて。

がばっと起きあがった。

「おっ」

覗き込んでいた咲耶は頭をあげたために、何とかぶつからずにすんだが。

千尋は咲耶に膝枕されていたのだった。



「すすすすすすみませぇぇぇんっ」

畳に額がつくほど土下座し、千尋はひたすら謝り倒していた。

いくら不可抗力とはいえ、客―――しかも上客で、日本を代表するような女神に膝枕させてしまったのだから、湯婆婆に知られたらそれこそ一ヶ月分の給料は軽く飛んでしまうだろう。

「いや、色々と観察出来て妾も楽しかった」

観察?

その言葉に千尋は不審なものを感じたが、深く追求しないのが世渡りの秘訣なのは身をもって良く知っている。

「ほんにこの湯屋の従業員でなければ、琥珀と対で持ち帰りをしたいくらいじゃ」

咲耶はふ‥っと視線をふすまの方に向けた。

そのとたん、ざっとふすまが手も触れないのに開き―――――ハクがそこに立っているのが見えた。

「入って良いぞ。話は終わった」

ハクはそのまま無言でずかずかと千尋に近づいた。

「‥‥‥飲まされたようだね」

千尋の頬を撫でて、ハクは咲耶に聞こえないようにか耳元で囁いた。

「後は私が相手をするから、千尋は部屋にお戻り。その様子では今日の仕事は無理だ」

「でも‥‥ハク‥」

千尋は上機嫌の咲耶と反対に不機嫌のハクとを見比べた。

何が面白かったのか、咲耶はすこぶる上機嫌でハクを手招きしている。

「琥珀、酌を」

「‥‥承知致しました」

行きかけるハクの水干を千尋はきゅっとつかんだ。

「大丈夫。慣れているからね」

ハクは千尋を外に押し出すと、そのままふすまをしめてしまった。

「ハク!!」

慌ててふすまをあけようとするが、何故かびくともしない。

「咲耶さま!? ハク!! あけてくださいっ!!」

耳をつけるが、音も聞こえない。

「‥‥どうしよう‥」

ふすまの前でうろうろしていた千尋だったが、やがてその前にでんと座り込んだ。

入れないならば、ここで待つしかない。

出てくるまで待ってやるっ!










何杯目かの杯を飲み干したところで、咲耶がふっと視線を向けた。

「琥珀。あのままでは風邪をひくぞ」

「?」

杯を傾けていたハクが何の話かと首を傾げる。

「外じゃ。よほど妾は信用がないと見える」

促されて立ち上がったハクは、ふすまをあけた。



「‥‥‥‥千尋‥」



千尋がふすまにもたれて、小さくうずくまっていた。

酔いも手伝ってか、そのまま眠ってしまっているらしい。

「‥‥結界を張りましたね」

ハクが千尋の気配に気がつかない筈がない。

千尋から中がわからないように、ハクから外からわからないように結界を張り巡らせていたらしい。

湯婆婆の元でかなりの魔術を学んで来た筈のハクが、全くその結界に気がつかなかった――――それだけの事をあっさりとやってのける咲耶の力に、改めて神格と実力の違いを見せつけられたような気がして。

今更ながらに恐い、と思う。

目の前にいるのは、紛れもなく「神」なのだ。

「さぁて‥‥何のことやら」

咲耶はクスクス微笑むと、千尋の髪を優しく撫でた。

「千は妾の布団に寝かせれば良い。‥‥琥珀はまだ当分つき合うてくれるのであろう?」

ハクはぐっすりと眠り込んでいる千尋を抱き上げると「はい」と頷いた。










頭がガンガンする。

目が開けられず、千尋は「うー」とうめいた。

それでもやっとの思いで目を開ける。



「‥‥‥‥‥‥」

目の前に、ハクがいた。

目を閉じて規則正しい寝息をたてているハクの顔を、千尋は思わずまじまじと見つめてしまう。

「目が覚めたか‥‥琥珀は当分は起きぬであろう。いつもの3倍は飲ませたゆえ」

その声にがばっと振り返る。

ハクと反対側に

咲耶がいた。

寝乱れた着物のあわせからふくよかな乳房が見えて、慌てて視線を逸らす。

しかし問題はそこではない。

「‥‥‥なんで、咲耶様‥がここに‥‥??」

おそるおそる見上げる千尋に、咲耶は満面の笑みを浮かべた。

「ここは妾の部屋じゃ。そなたと琥珀が酔いつぶれてしもうたゆえ、ここに寝かしつけた。そうして眠る姿はそなたも琥珀もまだまだ子供よの‥‥既に男女の仲になっておるとは信じられぬ」

咲耶の指が千尋の首筋を撫でる。


千尋が悲鳴をあげるのも無理はなかった。










「‥‥だからごめんてば‥」

「‥‥‥‥‥‥」

ハクはムスッとした表情のまま。

二日酔いで最悪な状態な上に千尋の悲鳴を耳元で聞いてしまった為に、頭痛も不機嫌も最高潮なハク様である。

千尋が後ろで必死に謝っているのも無視してスタスタと歩いて行く。

「だって‥‥私、ハクと咲耶様に挟まれてたんだよぉ‥‥悲鳴あげちゃうよぉ‥‥」

ハクはぴた、と歩みを止めた。

「きゃ」

ハクが止まると思わなかった千尋は、ハクの背中に顔をぶつけてしまった。

「‥‥‥ハク?」


まさか咲耶姫に、自分が正体不明になるまで飲まされるとは思ってもみなかった。

途中で意識をなくしてしまい、千尋の悲鳴で目が覚めた‥‥‥のだが。

という事はその間は咲耶姫はやりたい放題だったという事になる。



くるーり、とハクは千尋に振り返った。

「‥‥‥な、なに?」

「‥‥確かめなければならないね」

「な、なにを?」

「何かされていないか‥‥だよ」

ハクは千尋の腕をむんずとつかんだ。

「私の部屋に来なさい」

「ち、ちょっとっ!? なんでそうなるのっ!? きゃー!!!」

哀れ、千尋はそのままハクの部屋に連れ込まれてしまったのであった。





その話を後で聞いた咲耶姫は、ひきつけを起こすほど大笑いしたらしい。

「出雲で酒盛りをしておるよりもこちらの方がずっと面白いのぅ」

次はどんな手でからかってやろうかと作戦を練る咲耶姫であった。







END


55555キリ番作品です。うぉ、コメント忘れてたぃ(汗)。咲耶姫、凄く人気があります‥‥美人だから? 性格がステキだから? 神様だから? ひそかにちらちらと御肌もお見せになっているご様子ですが、ハク全然気にしてないし‥‥(爆)。重ねていいますが、実際の咲耶姫はこんなんじゃないです。絶対(爆)。




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