文明の利器
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2000HIT キリ番作品
さて。 机の上にその携帯を置いて、ハクは悩んでいた。 千尋から強引に押しつけられ、短期間でとりあえず応対の仕方まではマスターさせられたものの。 やはり何となく手元においておきたくない。 千尋から貰ったものだから大切にしたいという気持ちと、あんな恐ろしい音が出るものとはあまりお近づきになりたくないという葛藤が今のハクを支配していた。 ――――やはり、返そうか‥‥‥ ――――いやでも、せっかく千尋がくれたものを返すのは、心苦しい‥‥‥ ――――しかし、いつあの音が鳴るかと思うと‥‥‥ ――――だが、もし返したら千尋が悲しい思いをするのは目に見えているし‥‥ 以下、エンドレス。 はぁ、とハクが今日になってから何十回目かの溜息をついた時。 「ハク様、お客様がお勘定の事でちょっとご相談があるとか‥‥」 青蛙の声が聞こえて来た。 「ああ、すぐに行く」 とハクが立ち上がった瞬間。 ガガガガカガガガ........(バイブ振動中) ぴっぴっぱっぱりらったぱーぱらったぱっぱっぱー(アン●ンパンの曲でヨロシク) 「! ! ! ! !!!」 その携帯がぶるぶる震えだし、異様な音を奏で始めた。 心臓が止まるかと思うほどハクは仰天して、そのまますっころんでしまう。 「な、何事ですか、ハクさま!?」 父役や兄役、湯女たちが慌てて走り込んで来た。 「な、なんですかこれはっ!?」 誰一人携帯を見た事がないのか、まだぶるぶる震えながら音を奏でているそれを気味悪そうに遠巻きに見つめている。 「は、ハクさまっ、な、なんとかして下さいっっっっ」 何か面倒な事があるとすぐに自分に頼ってくる父役の頭をごんと殴り、ハクは何とか立ち上がった。 ごくり、と息をのんで、一歩一歩近づいていく。 携帯は、まだぶるぶると震えてやかましい音を鳴り響かせている。 残っていた不発弾処理に向かう爆弾処理班のような心地で、ハクは一歩一歩その携帯に近づいていった。 あと、すこしで、手がとどく。 というところで、携帯はぴた、と動きを止めた。 「‥‥‥あれ?」 あんなにやかましかったのに、うんともすんとも言わず携帯はしーんと静まりかえっている。 「‥‥静まりましたな‥‥」 従業員たちの間にも「これで本当に終わったのか」という緊迫感が流れている。 ハクはおそるおそる、その携帯をつかもうと手を伸ばした――――――― ガガガガカガガガ........ ぴっぴっぱっぱりらったぱーぱらったぱっぱっぱー 「!!!!!!」 「きゃぁぁぁぁ―――――!!」 「うわわわわわわっ!!!」 またもや突然鳴り出した携帯が、従業員たちの緊迫感を一気に突き破る。 その結果――――油屋は大パニックに陥ってしまった。 すわ敵襲か、というような大混乱の中。 「ど、どうしたのどうしたの、何の騒ぎ!?」 千尋が慌てた様子で飛び込んで来た。 ハクはそこでまっしろになっている(燃え尽きたらしい)。 「ハク!? どうしたの、ハク!? ‥‥ってあれ?」 机の上でやかましい音をたてている携帯に気づき、千尋はひょいと手にとって「切」ボタンを押した。 「‥‥‥誰からだろ? 知らない人みたいね‥‥間違い電話かな?」 着信履歴を見て電話番号を確認した後、千尋は「はい」とハクにその電話を差し出した。 が、ハクは後ずさるばかり。 「いや、いい‥‥私には、手に余る代物のようだ‥‥‥」 「えー、でも‥‥」 「セン――――――――――――ッ!!!!!」 千尋がぎくりと身をすくめる。 「ちょっとこっちにおいで!!!」 湯婆婆が怒りもあらわにそこに立って命令するのを、千尋が逆らえる筈もなかった。 油屋を騒がせた原因を作ったという事で、こってりと絞られたあげくお給金をカットされてしまった千尋は、結局ハクに携帯を持たせるのはあきらめたらしかった。 しかし、それで懲りた訳ではなかった。 「じゃーん!! 見て、ハク!!」 今度は何を持ってきたのか、とハクがびくびくと振り返ると―――千尋は手のひらに乗るような平べったいものをハクに差し出していた。 「今度はね、ポケベル! これなら携帯よりも扱いは簡単だし、ハクにもわかるよ!!」 ハクの苦悩は、当分続きそうである。 END |
2000キリ番作品です。ハク様と携帯。これほど似合わない(失礼)取り合わせもないかと‥‥(笑)。しかし、情けなさだけが全面に押し出されてしまったようです(T▽T)。ある意味ハク様、めろめろなのかもしれませんが‥‥もっと精進します(涙)。 |