禁句
その2







千尋のダイエットはさらに進んだ。

さすがに周りから「食べろ」と言われて、ご飯はきちんと食べるようになったらしいが、それでも量はいつもの3分の2程度。

リンが持ってくるおやつも断って、間食は全くしない。

確かに痩せては来たが、どっちかと言えば「やつれて」来た千尋に、リンとハクは危惧を感じていた。




「‥‥‥何とか止めないと、ありゃ絶対に栄養失調になるぞ」

「わかっている」

「だいたいおまえが言い出しっぺだろ。何で止められねぇんだよ」

「‥‥‥‥‥‥‥」

それを言われるとハクとしては何も言い返せない。

「オレにいい考えがあるんだよ。ちょっと、耳貸せ」

リンの言葉に眉をひそめつつ、ハクはリンの口元に耳を寄せた。

「あのな。‥‥‥‥‥‥‥」

ごにょごにょと囁くリンの言葉にいちいち「うんうん」と頷いていたハクだったが

「‥‥‥‥そんな事で千尋がやめるのか?」

不審そうに問い直す。

「テキメンだと思うぜぇ〜〜」

「‥‥‥‥‥‥わかった」

「煽りは任せとけ」

どん、と胸を叩くリンに、ハクはますます不審そうな目を向けた。

「‥‥‥なんだよ、その目は」

「いや‥‥‥リンも女だったんだなと思って」

「‥‥どういう意味だそりゃ」









「千尋」

呼び止められた千尋はぱっと振り返った。

「あ、ハク‥‥‥なぁに?」

ハクはこいこい、と手招きをする。

「ちょっとおいで。話がある」

千尋は眉をひそめた。

「ご飯をもっと増やせってのは却下よ。一応は食べてるんだし、仕事だってきちんとしてるんだから文句はない筈でしょ」

「いいから」

いつになく頑固なハクに、千尋は仕方なくハクの方に近づいて――――歩き出した彼の後をついていった。




歩いていった先では、リンも待っていた。

「あれ? リンさんも‥‥どうしたの?」

「オレも千に話があってな」

千尋はハクとリンとを見比べた。

「二人して待ちかまえるって事は‥‥‥やっぱりダイエットの事でしょ。嫌だよ、やっと調子出てきたところなんだから」

本題に入る前に突っぱねて来た千尋に、リンが声を荒立てた。

「千、そんなに太ってないだろ。この頃は痩せてるってよりもやつれて来てるの、自分でわかってんのか?」

「後もうちょっとで40kgになるんだもの。それまで頑張りたいの。ね? お願いっ」

可愛らしくお願い、をされるのにリンも弱い。

ほだされそうになって、リンは慌てて我に返った。

「お願いされても‥‥このままだとヤバいぞ、体が」

「でも‥‥‥」



「千尋‥‥‥」

ハクが千尋の名を呼ぶ



「‥‥今以上に千尋が痩せたら、私は千尋が嫌いになるかもしれない‥‥」






まっすぐに千尋を見据え。

そうぽつりと呟いたハクに千尋はぴきんと固まった。




「‥‥嫌いになっちゃう?」

みるみる涙目になってくる千尋に、ハクはつい「そうじゃなくて」と言いかけてぐっとこらえた。

「千尋はちょっとふっくらしてる方がいい‥‥その方が抱き心地もいいし、何より美人に見える」

「な?」

リンが便乗して言葉を繋げる。

「おまえ、ハクの為にダイエットしてたんだろ? そのハクが「痩せるの嫌だ」と言ってんだから、続ける意味ないだろ」

そこまで言われて続ける理由はない。

「‥‥うん、分かった。ダイエットは‥‥やめる」

千尋が残念そうに呟くのを聞いて、リンとハクは「ほぉぉ〜〜‥‥」と安堵のため息をついた。

「でも」

千尋はハクに視線を向けた。

「じゃ、何で「太る」‥‥なんて言ったの?」


ぎく。



「その理由聞かせてくれなきゃ、私納得出来ないよ‥‥」

「‥‥え‥‥その‥‥」

理由を言うには恥ずかしい。

しかし理由を言わなければ納得してくれない。

ハク最大の試練である。

リンはニヤニヤしながらハクと千尋を見つめていたが

「そりゃー、ヤキモチやいたに決まってるじゃん。オレと千が仲がイイからさ」

ずばり図星を言われて、ハクはぎらっとリンを睨み付けた。

「リ〜〜〜ン〜〜〜〜〜〜〜‥‥‥‥!!!」

「そこで怒るって事は図星ってことなんだよなぁ‥‥」

うんうんと頷くリンと、「そうなの?」と確認をしてくる千尋。

その二人に挟まれて、ハクは珍しくもぼっと赤くなった。

「‥‥そうなの?」

確認のように念を押され、ハクは落ち着きなく髪をかきあげた。

「ま、まぁ‥‥言葉のアヤというか‥‥そんな感じだ」

「そうだったんだぁ‥‥‥もぉ、それならそうとはっきり言ってくれればいいのにっ」

ぷん、とムクれる千尋に、ハクはただ「ごめん」と謝るしか出来ない。

そんな二人を見ながら「今度ハクに何かおごらせよう」と目論むリンであった。







さて。

「今日はハクのおごりなっ!」

「ホントにいいの? ハク‥‥‥」

「‥‥約束だから、仕方ない」

橋の上で三人はそんな事を話しながら歩いていた。

あれから普通に食べるようになった千尋は、元のプロポーションを取り戻しつつある。

「ちょっと太めの方がイイって言ってんだし、たっくさん食おうぜ、千?」

すっかりたくさん食べるつもりでいるリンに、ハクはにらみをきかせた。

「そなたこそ、少し太ったのではないか? 前はもう少し動きが機敏だったような気がするが‥‥」

「わ、ハクっ‥‥女の子にそれは禁句っ‥‥」



青い空に、ばっちん!! という乾いた音が響き渡った。






懲りないハク様である。






END

暗い話が続いていたので明るい話を。ダイエットネタです。よそ様で楽しませて頂いたネタでしたが敢えて挑戦をしてみましたっ。というのも最後のリンに平手打ちされるハクが書きたかっただけという‥‥(笑)。女心にもの凄く疎いハクにしてみましたが、どうなんでしょうね‥‥ホントのとこは??(^^;




BACK        HOME