その客・要注意につき
その2
77000HIT キリ番作品
気がつくと千尋は自分の部屋で眠っていた。 隣にはリンやおねえさま達が眠りについていて。 「‥‥‥私?」 何時の間に自分の部屋で寝てたんだろう‥‥。 そう思いつつごそごそと部屋から出ると。 月がもうすぐ地平線の向こうに沈もうとしているような時間だった。 「私‥‥えぇと、ルゥ様の部屋で‥‥‥」 そう回想していた千尋は―――お客様の部屋で眠ってしまった事を思い出し、さぁっと青ざめた。 慌てて自分の体を見回すも、異常は何処にもない。 一瞬ハクが連れて来たのかとも思ったが、ハクならきっと自分の部屋に拉致るだろう。 から違うとして‥‥。 じゃあ一体誰が? 「‥‥んん‥‥なんだよ、セン。起きたのか‥‥? 朝まではまだ時間あるぞ‥‥?」 リンがもそもそと起きあがってくる。 「ごめん、起こしちゃった?」 「眠れる時に眠っておけよ‥‥明日もまた仕事があるんだからな」 「うん‥‥ねぇ、私をこの部屋まで連れて来たのは‥‥誰?」 「んぁ?」 リンは頭をぽりぽりとかいた。 「オレだよ‥‥ほれ、あの変な言葉喋る客に呼ばれて、身振り手振りで連れてけって言われたからさ」 「リンさんが?」 ハクよりも先にリンに引き渡されたのは、幸運だったかもしれない。 もしハクに見つかっていたら――――― その後のお仕置きを考えて、千尋ははーっと息をついた。 「早く寝ろよ‥‥」 リンはそういうと再び布団に潜り込む。 「うん‥‥お休みなさい」 千尋はそれだけ言うと、再び外へと目を向けた。 夜は白み、もうすぐ朝が来ようとしていた。 次の日。 千尋が部屋をうかがうと、ルゥは帰り支度を始めていた。 「あのぅ‥‥」 「セン」 ルゥはにっこり微笑んだ。 「セン、今日は、元気みたいだ」 ―――――え? 千尋はぎょっとしてルゥを穴があくほど見つめてしまった。 「‥‥? 顔に何か?」 「‥‥あ、あのっ! 今日本語を‥‥‥!?」 確かに喋った。 昨日までは英語しか喋れなかったのに!? ルゥは「そんな事か」といわんばかりににっこりと満面の笑みをうかべた。 「昨日、センが寝た後、あちこちの部屋の話聞いてちょっと勉強してみた」 「勉強してみたって‥‥その‥‥」 わずか一夜でここまではなせるようになるもんだろうか!? 「ありがとう。色々と面白かった。今度は仲間と共に来るから」 「は、はぁ‥‥」 唖然としている千尋にルゥはくすっと微笑んだ。 「次に来る時には、もっと言葉を勉強しておくよ。でないと、センとゆっくり話出来ないから」 来る時に身につけていた鎧をまとい、槍を背負う。 そして 「I will come to see you again.」 千尋の額に軽く口づけし、そのままルゥは歩き去っていってしまった。 後には 違う意味で呆然とする千尋が残るばかり。 「‥‥‥千尋」 どきーん! ばくばくする胸をおさえつつ振り返った千尋は、無茶苦茶不機嫌そうなハクにさぁぁっ‥と青ざめた。 「‥‥あの男、最後に何を言ったのか‥‥千尋はわかっているのだろう?」 「ぃや、あのーそのー‥‥」 「‥‥言いなさい?」 お助け下さい、神様――――――!!! なんて言葉を叫んでも、時既に遅し、であった。 さて。 千尋はバイトが終わって自分の世界に帰った後、ルゥの事について色々と調べてみた。 アイルランドあたりから来たということ。 ルゥという名前。 それを手がかりに調べてみる――――― 「‥‥‥あった!」 ・ルゥ ケルト神話に出てくるダーナ神族の1人で、光と太陽を司る神。他にも知識、技能、魔術などありとあらゆる技能に秀でた神で、ダーナ神の4つの宝である魔の槍「ブリューナク」を持つ。 そこまで読んで、千尋はばんっと本を閉じてしまった。 ルゥの最後の言葉は「また来るよ」。 これからの事を考えると頭痛がしてくる。 うららかな午後の昼下がりの図書館で、くらーい溜息をつく千尋であった。 END |
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77000キリ番作品です。ルゥという神はケルト神話に出てくる光の神です。万能の神らしく、それでいてなかなかかっこよかったみたいですヨ。今回リクでは「湯屋に外国人が来る」というものでしたが、湯屋には人間は来られないので外国の神にしてみました。アイルランドはおそらく公用語は英語ではないと思うのですが‥‥ま、まぁ日本語ではなければヨシって事で(滝汗)。 |