愛情の度合い
その1

7000HIT キリ番作品






千尋がなにやらこそこそしている。

ハクの姿を見かけるとさささっ‥‥と逃げたり。

ハクが話しかけると事務的応対だけして去っていったり。

何か自分がしただろうかと思って聞くと

「ううん! ハクは悪くないの。今は‥‥ちょっとね。だから気にしないで!!」

とはぐらかされる始末。


今まであんなに懐いて来た千尋が全然近寄って来ないので、ハクはとても寂しい思いをしていた。


何しろハクは川とともに生まれてこのかた「愛情」というものをきちんと味わった事がないので、ある時は甘えて来たり、ある時は底知れぬ包容力で包み込んだり、またある時はこちらがどきっとするような仕草を見せて誘惑してきたり(これはかなり私情入っていると思われる)といった色んな愛情を表してくれる千尋は、彼にとってもうなくてはならぬ自分の半身以上の存在である。

それが。

ここ一週間ほどはそばに近寄る事も出来ず話も出来ない有様で、通りかかりに千尋が働いている姿を見るくらいしか許されていない。



もっっっっっっっっっっのすごく欲求不満である。




「‥‥‥で何でオレのところに来るかな」

リンは無茶苦茶不機嫌そうな顔でハクを睨み付けた。

「おまえが一番千尋と仲がいいだろう」

「だからって何故オレに愚痴る!? 千に直接愚痴りゃいーだろ!」

「出来ないからおまえのところに来ているのがわからないか?」

リンはき――――っと頭をかきむしった。

「おまえがそんなに女々しいとは思わなかったぞ」

ぐさ。

それはハク自身もよく分かっていたのでちょっと、いやかなり胸に突き刺さった。



他人と関わるなんてめんどくさいだけ。

近づいて来ないならばそれでいい。

1人の方が気楽で良かったし、油屋の面々とも必要以上に接したいとも思わなかった。

しかし千尋だけは別。

彼女に避けられたり嫌われたりするのだけは、とても耐えられない。



ハクがあまりにも沈痛な顔をしているのを見てさすがにリンも可哀想に思ったのか、ハクの肩をぽんと叩いた。

「ま、後数日の辛抱だな」

「‥‥数日の辛抱?」

「そ。冬の寒さが厳しいほど春の暖かさが嬉しいと思うだろ。そんなモンだ」

どんなモンだかわからないが、リンの断言するような口調に少し落ち着いたのかハクは素直に頷いた。





「なぁ、千尋」

ハクが行ってしまってからリンがぼそ、と呟くと、後ろの壁から千尋がひょこっと顔を出した。

「ありゃ相当参ってるぜ。いい加減言ってやれよ‥‥」

「でもぉ‥‥‥」

もじもじと躊躇っている千尋に、リンははぁぁと溜息をついた。

「アイツが逆キレする前に何とかしろよ。まだ出来ねぇのか?」

「う、うん‥‥もうちょっとなの」

「‥‥あいっかわらずトロいなぁ‥‥」

「ううう。だって今までやった事ないんだもの‥‥」

「だからオレが手伝うって言ってんのに」

「駄目! 全部自分でやりたいの!!」

ふるふると首を横に振る千尋の強情さにリンは二度目の溜息をついた。

「わーったわーった‥‥ハクの方の面倒はとりあえず見ててやるから、おまえは早く"ソレ"を仕上げろよな」

「うん!!」

千尋は、ハクが見ていたら絶対に悔しがると思われるくらいステキな満面の笑みをリンに向けた。







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