愛情の度合い
その2

7000HIT キリ番作品






それから数日。

やはり千尋は近づいて来ない。

いい加減、苛々もしてくる。

千尋が話しかけて来ないだけで苛々してしまう自分自身にも腹もたつので、悪循環である。

「‥‥‥‥‥」

ふと気がつけば机をトントン、と指でいらだたしげに叩いている。

その自分の行動にまたもや自己嫌悪。

もし。

もしも千尋と二度と会えない、なんて事になったら自分はどうなるんだろう。

そう考えかけて、ますます泥沼にハマりそうになり、慌てて首を振る。

「‥‥‥‥はぁ」

今度は溜息をついてみたりして。

なかなかに忙しいハクである。



「ハ・ク」

後ろからつんつん、とつつかれてハクはぎょっと振り返った。

千尋が立っている。

「今、時間ある?」

ここ10日ほどずっと避けられていた後で、この千尋の行動に理解が出来ず、ハクは呆然と千尋を見上げるばかり。

「時間‥‥‥は、あるけど‥‥」

「じゃあ、来て! すぐに終わるから!!」

千尋がハクの腕をつかんでぐいぐいと引っ張る。

「う、うん‥‥」

ハクは千尋に引っ張られるがままに、倉庫にまでつれられていく羽目になった。






「千尋‥‥‥一体‥‥‥」

何の為に、と言いかけたハクは、前を歩いていた千尋が振り返った事で口をつぐんだ。

「あの、ね。今まで‥‥‥避けててゴメンね」

千尋はいきなりぺこり、とハクの前で頭をさげた。

頭の上でくくられた髪がぴょんとはねる。

「え‥‥千尋‥、その‥‥」

話の展開の早さについていけていないハクの目の前に、千尋はずずぃ、と包みを差し出した。

「これ、あげる」

「‥‥‥私に?」

「うん。開けてみて」

とりあえず受け取ったものの千尋と包みとを見比べるしか出来ないハク。

千尋は焦れったそうにハクの腕を揺すった。

「ねぇ、開けてみてってば」

「あ、う、うん‥‥」

綺麗な包装紙に包まれたそれを丁寧に開けていく。



「‥‥‥えっ」


そこには、薄い水色の布で出来た水干が入っていた。

ところどころ目がちょっとよろけていたりするあたり、どうやら手作りらしい。

「千尋、これ‥‥」

「ハクに似合うかなぁ〜と思って‥‥一応、サイズは‥‥その、有る程度まではわかってるからそれで作ってみたんだけど‥‥」

リンさんに下手くそって怒られちゃったけど、でも一生懸命作ったから‥‥今の水干を洗濯してる時にでも着てね。いつも同じ水干だとお洒落も出来ないでしょ。

千尋は恥ずかしそうにそう言うと照れているのかつま先で床にののじを書き始めた。

「‥‥あ、ありがとう‥‥でも‥‥どうして?」

どうして千尋がわざわざ自分に隠れてまで縫い物をしてくれるのだろう。

「‥‥ハク‥‥忘れちゃってるの?」

千尋が責めるようにハクを見つめてくる。

「えっ、いや‥‥その」

千尋に関する事で忘れている事がある?

ハクは慌てふためいて必死に記憶を探った。

――――湯婆婆に操られていた竜の姿だった時以外の記憶はすべて思い出せたが、千尋に責められるようなものは何もない。

「‥‥‥忘れてるんだぁ‥‥」

「そ、そんな事はっ‥‥」

と否定はしてみるものの、どうしても思い出せない。

ハクが思い出せない事を悟ったのか、千尋はちらっとハクを睨みつつ言葉を紡いだ。

「‥‥今日なんだよ。あの橋の上で、ハクと再会したの」

一年前の、今日。

千尋とハクは、あの橋の上で出会った。

「あの時ハクが助けてくれたから今の私があるの。だから、ハクに何か‥形に残るものをプレゼントしてあげたかったの」

そう語る千尋の頬がどんどん赤くなってくる。

「千尋‥‥‥」

ハクは胸の中がじーんと温かくなってくるのを感じていた。

「‥‥その‥‥ハクにはナイショにしてて、びっくりさせたかったの。ハクと話をしたら絶対にぽろっと喋ってしまいそうだったから‥‥だから、ごめんね?」

ハクは千尋の腕をつかむと引き寄せて、ぎゅっと千尋を抱きしめた。

「ありがとう‥‥ありがとう、千尋‥‥」

「そ、そんな‥‥私が勝手にやっただけだし‥‥」

「ううん。嬉しい‥‥とても」

どちらからともなく、お互いの目を見つめる。

そして――――ゆっくりと顔が近づいていく―――――――








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