舞姫
その2

78000HIT キリ番作品







思ったとおり、皆宴会場に集まって何やら騒いでいる様子。

客どころか従業員たちも集まって騒いでいる始末である。

が、そこにいる者は皆何故か男。

何が行われているのか確かめたくてもあまりにもそこにいる人(?)が多すぎて全くわからない。

「‥‥ぃよしっ」

千尋はかがみ込むと脚の間をもぞもぞと通り始めた。

「いてっ」とか「なんだっ」とかいう言葉を無視し、ようやく一番前にまで到着した千尋は――――

目の前で繰り広げられている光景に絶句した。





細女がいた。

舞姫と言われるだけあって、どうやら踊りを披露していたようである。

だが。


――――なんで素っ裸なの―――――――――――っっっ!!!!




そう。

細女は何も身にまとわぬ姿で踊りを披露していたのだった。






いや、何もまとわないというのは語弊があるかもしれない。

彼女は羽衣のような薄絹をまとって踊っていた。

が、すぐ向こうが透けてしまうような布では体を隠すのには不向き。

その布が彼女の周りをまるで風のように舞う様は確かに美しいが――――どちらかといえば彼女の肢体を強調させる方に一役買っている。


自分と同じ顔で

自分よりも素晴らしいプロポーションの女性が

惜しげもなくその肢体を男の前に晒すのははっきり言って心臓に良くない。

またその踊りは酷く悩ましげで、男の劣情をそそるものばかり。

道理で女が1人もいない筈だ。

胸はおろか、普通の女性ならば絶対に見せないであろうところまで晒し、踊る。

まるで芸術の域にまで達したストリップショーを見ているかのようだ。



「まぁ、千ではないの」

それまで一心不乱に踊っていた細女が千に気がついて近寄ってきた。

「そなたも一緒にわたくしと踊る? 気持ちいいわよ?」

すっ‥と顎に指をあてられ、千尋ははっと我に返って後ずさった。

「な、な、な‥‥なんで裸なんですかっ!? 恥ずかしくないんですか!?」

「え?」

細女は自分の体を見回し、ああ‥と微笑んだ。

「別に恥ずかしくはないわ。舞というのは奉納するもの。舞によって自らの体も魂も神に捧げるのだから。よけいなものをまとうのは失礼にあたるでしょう?」

「で、でもっ‥‥なんかその踊りって‥‥」

いやらしい。

という言葉はさすがに言えなかった。

自分と同じ顔が素っ裸で自分をのぞきこんでいる――――それだけで顔が真っ赤になる。

リンはきっと知っていたのだろう。

だから千尋を行かせたがらなかった。

今頃そう悟っても後のまつり。

「皆が喜んでくれるのがわたくしにとっては一番嬉しいの。千も一緒にどう?」

腕をとられて千尋は仰天してしまった。

「ここは湯屋ですから〜〜〜!! せめて何か服を着てください―――――!!」

そう叫んで逃げ出すのが精一杯。

その後ろ姿を細女は不思議そうに見送るばかりだった。






異様に盛り上がったらんちち騒ぎも何とか静まり。

湯屋にようやく静けさが戻って来た。

仕事が終わりぐったりしつつ部屋へと戻っていた千尋は、ふと蛙男たち3、4人が自分を見ているのに気がついて眉をひそめた。

無視して行こうとするもさりげなく前を塞がれてしまったが為に足を止めざるを得ない。

「‥‥‥何の用でしょうか?」

何となく自分を止めた理由はわかるが、そう言わなければ通してくれないような気がして、千尋はそう尋ねた。

「さきほどの細女様の舞は千も見たのであろう?」

「さすが巫女神様だけあって、素晴らしい舞であった」

舞は確かに素晴らしかった。

けど男たちの視線が何処に釘付けになっていたかは、疎い千尋にだって分かる。

あの場所にハクがいなかった事には安堵していたけども、もしハクがいたらハクも釘付けになっていたのだろうか。

「はじめて来た時にはやせっぽちの娘だと思っていたが、あれから数年たてば多少は女らしくもなったであろう」

「細女様と顔は同じでも体つきまで同じであろうかのぅ?」

ほぅらやっぱり。

さっきから自分を見る目が変だと思ってたんだ。

千尋は人知れず溜息をつくと、自分の腕に手を伸ばして来た男の手を振り払った。

「細女様と私は違います! 申し訳ありませんけど、あそこまで私は美人じゃない事くらい自分で分かってますから、ご期待には応えられませんね!」

そう言い切って歩いていこうとしたのを引き留められる。

「きゃ‥‥!」

「ハク様の寵愛を受けているからといい気になりおって! 人間の分際で」

髪を引っ張られて壁に押しつけられ、千尋は悲鳴をあげた。

「一度痛い目に遭わぬとわからぬようだな!」

叩かれる!!

そう思った千尋は痛みに耐える為に目をつむった。







「一度痛い目に遭ってみるか? あん?」

千尋を叩こうとした腕を掴んでいたのは―――――リン。

「だからあんた達は万年ヒラなんだよっ!」

言葉とともに蛙男を蹴り飛ばすその勢いに、千尋の方が青ざめてしまった。

今のはクリーンヒットだった!

「こういうのがハク様の耳に入ったらどうなるんだろうね〜〜"ハク様"は湯婆婆様のお気に入りである事には変わりないんだし? 千も色んなお客様に気に入られてるんだから‥‥そのお客様から湯婆婆様に苦情でも行こうモンなら、あんた達有無を言わさず豚にされてそのまま明日の晩飯に出される事になるんじゃねーの?」

豚にされる、という言葉に男たちは縮み上がり、口々に「遊びだ遊び! 本気にするな!」と捨てぜりふを残して逃げていってしまった。

「バーカ! 一昨日きやがれっ!」

そんな後ろ姿に追い打ちをかけ、リンはぱんぱんと手をはらった。

「リンさぁん‥‥」

リンの姿を見たとたんにじわぁ、と涙が浮かんでくる。

今までの怖さが一気に吹き出して、千尋はリンにしがみついた。

「ああ、よしよし。もう大丈夫だからな?」

千尋の頭をなでなでと撫で、リンは振り返った。

「追っ払ったぜ、"ハク様"?」

その言葉にはっと千尋が顔をあげると、ハクが姿を現した。

「ハク‥‥‥み、見てたの‥‥?」

リンが苦笑する。

「ハクが飛び出そうとしてたのをオレが止めたんだよ。ハクが止めたら後で千に倍返しになって帰ってくるのは火を見るより明らかだからな。オレが追っ払った方が後腐れねぇし」

「そう‥‥だったの‥」

ハクは無言で千尋に近づくと、リンの腕からもぎ取るように千尋を抱き寄せた。

「細女様には私から良く言っておく‥‥千尋に二度とこのような事がないように」

そう言って千尋を抱きしめる腕は強く、ハクが本気で怒っているのが感じられた。

「だから安心おし」

「‥‥‥うん‥」

そうやって抱き合っている二人から視線を逸らし、リンは肩をすくめた。







次の日。

「そなたには色々と迷惑をかけたようで、すまなかったわ」

細女にそう言われて千尋はえ? と問い返した。

「この湯屋で踊るのはやめる事にするから、今度来た時には話し相手になってくれないかしら」

ハクが話をつけてくれたのはどうやら本当らしい。

それはそれで安心したが――――どうやってつけたのか、というのが今度は気になる。

千尋が変な顔をしていたのに気がついたのか、細女は微笑んだ。

「今度はしたない真似をしたら大神に言いつけると言われたの」

なるほど。

大神とは果たして誰かという疑問は残るが、それはまたハクに聞こう。




帰っていく細女を見送り、千尋はほーっと息をついた。

「帰られた?」

「うん」

後ろに立っているハクに振り返り、千尋は頷いた。

「‥‥綺麗だったね」

「千尋の方が綺麗だよ」

さらりと言うハクに千尋は頬を赤らめた。

――――恋人どうしと言われて長いが、やはり慣れない。

「千尋?」

「し、仕事残ってるから先行くね!」

ぱたぱたと走って行く千尋を見送り、ハクは笑みを浮かべた。



そう。

千尋がどんなに可愛いかは自分だけが知っている。

それは自分だけが知っていればいいこと。



しかし。

さすがに細女と千尋のヌードを頭の中で比較してみて、千尋の方がいいと思ったなどとは、口が裂けても言えない事実。


ハクは千尋の後を追ってゆっくりと湯屋の中に入っていった。







END

78000キリ番作品です。どんどんオリジナルキャラ‥‥しかも実在(?)の神様出てきてますねー。ハイ、設定考えるのがめんどくさかったんデス!(自爆) 今回は天細女神(アマノウズメノカミ)です。踊る時に真っ裸になったというのは本当のエピソードらしいです。霰もない姿で踊り、男神達の目を釘付けにしたという‥‥千尋に似ているかどうかというのは全くの作り話です(^^; リクは千尋そっくりの神様が来る‥というものでしたが、ちょっとこじつけっぽかったかな?(汗)




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