ねこねこ・こねこ
その2
47000HIT キリ番作品
それからというもの。 千尋は完全に猫のコハクにかかりきりになった。 仕事が終わったら真っ先に部屋に戻って、コハクと遊んでいる。 さすがに耐えかねて、一度ハクがコハクに手を出そうとしたが。 コハクのほうもわかるらしく、思いっきりハクをひっかいて来た。 すぐに千尋が駆けつけなかったらそのまま窓から放り出しているところだ。 「もーハクったら!! 大人げないなぁ‥‥」 きゅっとコハクを抱きしめる千尋に睨まれて、その時はおとなしく引き下がるしかなかった。 何日目かの仕事後。 千尋は部屋の中を探し回っていた。 「‥‥あれぇ‥‥?」 部屋にいるはずのコハクがいない。 「どこいっちゃったんだろ‥‥」 いつもおとなしく部屋で待っていて、餌を持ってくると飛びついてくるのに。 一体どこにいっちゃったんだろ。 「‥‥‥まさか」 このごろハクの機嫌が悪かったから‥‥もしかして、ハクが捨てちゃったとか!? そう考えるといてもたってもいられなくなって、千尋は慌ててハクの部屋へと駆けだしていった。 「ハク!!」 ハクの部屋に通ずる扉をあけると、机に向かっていたハクが驚いたような表情で振り向いた。 「千尋? どうしたんだい‥‥そんなに息せき切って」 「ハク‥‥‥コハク、知らない?」 「あの子猫? いないのか?」 心底不思議そうなハクの様子に、千尋は当てがはずれ言葉を失った。 言ってることとやってることがよく食い違っているハクだが‥‥‥今の様子からすると、どうやら本当にコハクのことは知らないらしい。 「部屋に戻ったらいなくって‥‥ご、ごめんね仕事の邪魔して。それじゃっ!」 まさかハクを疑ってました、なんて言おうものなら「おしおき」と称して何をされるかわからない。 ここは逃げるに限る。 と外に出ようとした千尋は、むんずと服を引っ張られよろめいた。 「きゃ‥‥」 そのままハクの腕の中に転がり込んでしまう。 「千尋が私のところに来るのも久しぶりだね?」 やばい状況に陥りつつあるような気がする。 千尋はおずおずとハクを見上げた。 「そ、そうかなぁ‥‥」 「ずっと千尋は子猫にかかりきりだったからね?」 コハクという名をつけたのもハクの不機嫌をあおっているのだろうが、一番の不機嫌の理由はやはり千尋がハクに全然見向きもしなくなったから、であるのに間違いはない。 「話しかけても全然上の空だったし?」 にこにこと微笑んでいるのがかなりキレかかっている証拠だ。 「そ、そんなこと‥‥あ、わ、私もういかなきゃっ」 そう言って逃げ出そうとした千尋は、あっさりと押し倒されてしまった。 「ハク、おちっ、落ち着いてっ!」 「せっかく千尋のほうから来てくれたんだし‥‥話したいこともたくさんあるし」 そう言ってハクは微笑みを浮かべた。 「今夜はつきあって貰うよ、千尋?」 千尋の悲鳴はすぐに闇の中へと消えた。 「にゃ〜〜お‥‥」 「ん? どした、コハク?」 物欲しそうに鳴きながらやってきたコハクを、リンが抱き上げた。 「おまえ、どこにいってたんだ? エサも食べずに‥‥お散歩か?」 どうやら庭あたりを散歩して来たらしく、あちこちに葉っぱがついている。 「千のやつもどこに行ったか帰ってこねぇし‥‥待ってな。エサやるからな」 リンの言葉に、コハクは「にゃ!」と元気よく返事を返した。 次の日の昼すぎ。 「‥‥おはよ‥‥」 げっそりとした顔で現れた千尋に、リンが苦笑した。 「その様子じゃそーとー苛められたみたいだな」 「‥‥‥ノーコメント‥‥」 「コハクにエサやっといたぞ。猫まんまで良かったよな?」 リンの言葉に視線をやると、コハクは千尋の布団の上で丸まって眠っている。 ――――ぐっすり眠れて羨ましいよ‥‥コハク‥‥‥。 千尋はあちこちが痛む体(特に腰)を押さえてかっくりとうなだれたのだった。 やがてコハクは千尋の実家、荻野家で飼われることとなった。 それから後、ハクの機嫌が悪くなることはなかった。 しかし。 荻野家にハクが行った時には今でも熾烈な戦いが繰り広げられていることは、また別の話である。 END |
47000キリ番作品です。動物に夢中になる千尋にハクが嫉妬するというので、かわいがる対象として「こねこ」を設定してみました。こいぬも可愛いんですけども。こねこにコハクという名をつけたのは‥‥何となくです(笑)。よけいにハクの嫉妬をあおったような気もしますけども(笑)。 |