日常的脱走
その1

17000HIT キリ番作品






ぽけ――――――。


ベランダの手すりに頭をもたれかけさせて、千尋はぽーっと外を見つめていた。

「こらっ」

ぺしっと頭をたたかれて、千尋は顎を打ち付けてしまい、痛みにうめいた。

「あいたたた‥‥」

「そんなに無防備でいたら後ろから襲われても文句いえねえぞ」

リンが豪快に笑いつつ千尋を見下ろしている。

「お、襲われるって誰に―――――!!」

「決まってんじゃん。あの白面のインケン帳簿係だ」

「あ、あははは‥‥」

的を得ているので反論はできず、かといって肯定するのも怖いので、千尋は曖昧に笑うにとどめておいた。

「そういえば、ハクを見ないよね‥‥‥忙しいのかな」

「んー、そうじゃねぇの?」

どこからか出した饅頭をぱくつきながら、リンは興味なさそうに答えた。

「そーだ。千さ」

リンは千尋をのぞき込んだ。

「明日、仕事の前にちょっと茶でも飲みにいかねぇか? ここしばらく休みもねぇし、働きづめでウンザリしてたとこなんだよ、オレ」

「お茶‥‥?」

「団子がおいしい店があんだよ」

お団子、と聞いて千尋はぴくと耳をそばだてた。

「ちょっと早起きして。どうだ?」

早起きと、お団子と。

天秤にかけて――――――千尋はうんと頷いた。

「行く!!」





次の日。

「‥‥‥ん?」

ハクは従業員の勝手口で音がするのに気がついて、そちらをのぞき込んだ。

「はやく、はやく」

「待ってよ〜〜」

「誰かに見つかったらうるせぇからな。さっさと行くぞ」

千尋とリンが履き物を履いて、なにやら外にでる準備をしている。

ぴーん、と何かを感じ取り――――ハクは姿を現した。

「‥‥‥なにをしている」

びっくーん!! と千尋が立ち止まり、リンがげっと声をあげる。

その様子で、ハクは自分の感じ取ったものが大当たりであることを確信した。

「‥‥‥二人でどこにいくつもりだ?」

ハクの低い声に千尋がおそるおそる振り返る。

「あ、あのねっ。えと‥‥」

そんな千尋の腕をリンががっと掴んだ。

「ずらかるぞ、千!!!」

リンがだーっと走り出す。

それにつられるように千尋も走らざるを得ず、あわてて走り出した。

「逃がすか!!」

ハクは早口で呪文を唱え、指で模様を描く。

「!!」

外へと続く入り口の扉が、風もないのに閉じようとしている。

「く!」

リンが走るスピードをあげる。

それに引きずられるように千尋も必死に走る。

「間に合え!!」



ばたーん!!



扉が大きな音をたてて閉まる。

そこに、リンと千尋の姿はなかった。

すんでのところで逃がしてしまったらしい。


「‥‥‥逃げても無駄だ――――必ず捕まえてやる」

どこぞの悪役のような言葉をつぶやいて、ハクは微笑みを浮かべた。










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