日常的脱走
その2
17000HIT キリ番作品
橋を渡り、食堂街まででてきて。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥」 さすがのリンもかがみ込んでぜぃぜぃと息をついた。 千尋に至っては声も出ず、壁によりかかって息を整えようとがんばっている。 「はぁ、はぁ‥‥な、なんとか‥‥まいたな」 「り、リンさん‥‥なんで‥‥こんなに、走らなきゃ‥‥なんないのっ‥?」 大きく深呼吸して息を整えてから、リンは腰に手を当てた。 「あっったり前だろ! ハクに見つかりでもしたらついてこられるに決まってる!」 「別にハクついて来てもいいじゃない‥‥」 「オレがやなんだよ。あんなやつと茶を飲むなんて死んでもヤだね」 ぷい、とそっぽを向くリンに、千尋は苦笑した。 「喧嘩するほど仲がイイっていうけど‥‥それだけ気が合うのかなぁ、ハクとリンさんって」 「冗談!! あんなやつと気が合うなんて鳥肌がたつ!」 「ホントはいい人なんだよ? ちょっと自分を表現するのが下手なだけで‥‥」 「下手でもなんでも、オレはやだ」 リンの考えは変わりそうもない。 水掛け論はここまでにすることにして、千尋はようやく背筋を伸ばした。 「じゃあ行こう。そのお茶屋さんに。私もうおなかぺこぺこ」 「そだな。じゃ、気を取り直して行くか」 歩き出しかけたリンは、ぎょっとして足を止めた。 「私を出し抜こうなんて100年早いね、リン」 いつでてきたのか、ハクがリンと千尋の前にたっていた。 「ハク、ハク、怒らないで聞いて、あのね‥‥」 弁明しようとハクのほうに歩き出しかけた千尋の肩をリンが掴み、自分のほうへと引き寄せる。 そのとたん、ハクの表情が3割増厳しくなった。 「オレたちはこれから女どうしの友情を温めに行くの。男はあっちに行った行った」 「り、リンさぁ〜〜ん‥‥」 わざわざハクの神経を逆なでするような言い方しなくっても‥‥と千尋がリンをなだめにまわる。 「女どうしの友情とやらを温めるのに、どうして私から逃げる必要がある?」 「そりゃトーゼン」 リンはびしっとハクを指さした。 「おまえが千のストーカーだからだ」 それを言ってしまったらおしまいだっ! と千尋は内心きゃぁきゃあ悲鳴をあげつつ、ハクの様子を見つめた。 「それがどうした」 そこも開き直るな!! とつっこみを入れてみるものの、やはり言葉には出せない。 「友達いないのはわかってっけど、いつもいつも千のことばっかだったら友達どころか知り合いもなくなるぜ」 「‥‥‥よけいなお世話だ」 ばちばちっと睨み続ける二人をきょろきょろと見比べていたが、千尋はやがてはぁと息をついた。 「ねぇ‥‥お団子‥‥」 おずおずとそう千尋が言うと、二人はぎらっと千尋に視線を向けた。 「‥‥‥後でいいです」 お団子食べられると思って朝食とってないのに。 千尋はぐ〜〜、と鳴るおなかをなでて、もう一度ため息をついた。 それから1時間経過。 リンとハクはまだまだエキサイト中で、当分口喧嘩は終わりそうにない。 千尋はすっかり蚊帳の外で、座り込んで大地に枝で絵を描いていたりする。 「だいたいおまえはなっ‥‥」 「リンに言われたくはない!」 そんな二人をちらっと見ては、「はー」と千尋は何十回目かのため息をついた。 「なにしてるんだ?」 その声にはっと千尋が上を見る。 そこには。 「坊‥‥!」 今や10歳くらいの姿に成長した坊が千尋を見下ろしていた。 「!」 「!!」 ハクとリンがぎょっと千尋のほうに視線を向ける。 「千、暇なら坊と遊ぼう」 すっかり蔑ろにされてしまっていた千尋は、ちらりとリンとハクを睨んでから坊に頷いた。 「うん、遊ぼう! 私ちょうど暇だったの!」 立ち上がって、千尋は坊の手をとった。 「私おなかぺっこぺこ! お団子食べにいこう? 私がおごっちゃうよ!」 「行く! 坊もおなかすいてたんだ!」 去っていく寸前、坊はあっかんべーをリンとハクにして。 二人はそのまま走り去ってしまった。 後に残されるは呆然と立ちつくすハクとリン。 「‥‥ハクのせいだぞ」 「どうして私のせいになる」 この期に及んでも、相変わらず仲の悪い二人であった。 その後、千尋の機嫌をとるのに二人が四苦八苦したのが油屋の噂となったのは言うまでもない。 END |
17000キリ番作品です。リンとブラックハクの千尋の取り合いということで、ラストに坊をトッピングしてみました。トンビがあぶらげかっさらわれたような作品になりました‥‥がいかがでしたでしょうか? どんどん仲悪くなってきてますが‥‥いつか最終決戦とかあるんでしょうか、この二人(爆)。 |