おでかけ

1500HIT キリ番作品





丘は、遠くで見ていたのよりも結構急な斜面で出来ていた。

「は、はぁ、はぁ‥‥結構、あるね‥‥」

「後もうちょっとだから頑張って、千尋」

「は、ハク、竜になってくれたらひとっとびじゃない‥‥」

「だめ。すぐ千尋は楽しようとするんだから」

「だぁってぇ‥‥」

息を切らせながら登る千尋と対照的に、ハクは涼しい顔で息も切れていない。

「もう少しだよ」

ハクの方が先に頂上につき、千尋の腕をもって引っ張り上げる。

「ふわ!」

ようやく到着して、千尋は頂上でうつぶせてぜぃぜぃと息を整え始めた。

「あー、やっとついた‥‥‥」

「ほら、千尋。見て」

ハクが急かすように千尋の肩を叩く。

「ちょっと待ってよ‥」といいつつ視線を向けた千尋は、そのまま絶句した。




あたり一面に広がる海。

何処までも遠く、遠く広がる海。

雲一つない空に、微かに見えるは月。

視界のすみにはさっきまで自分たちがいた油屋が見える。



振り返れば草原。

夜になれば川に変わる、果てしない緑色の海。

風が草原を渡るたびに、ざぁぁぁぁぁ‥‥っという音が聞こえてくる。



千尋は思わず立ち上がった。

「‥‥‥きれい‥‥」

そんな言葉が口からこぼれ出た。



こんな風景があったなんて。

現実世界でも見たことない。

こんなにきれいな風景。



「‥‥千尋に見せたかったんだ。ここの風景を」

ハクがとなりに立って、手を握りしめてくる。

「‥‥ありがとう、ハク‥‥‥ここ、わたしすごく気に入ったよ」

ハクが安堵するように息をつくのがわかった。

「よかった」

千尋はそっとハクの肩に頭をもたれかけさせた。







「ほら、おなかすいたろう?」

ひとしきり風景を満喫した後、ハクが取り出したのは――――

「あ――――、おにぎりっ!」

白いご飯で出来たおにぎりだった。

「ここまでたくさん歩いてきたから、きっとおいしいよ」

「うん!」

ハクが渡してくれたおにぎりに「いただきまーす!」の挨拶もそこそこにぱくつく。

「‥‥おいひぃ」

おいしそうにぱくついている千尋を、ハクは嬉しそうに見ている。

「なんか、ピクニック気分だね」

一個をきれいに平らげて、千尋はふとそんな事を口にした。

おやつとか、もって来たら完全にピクニックなんだけどなぁ。

「あ、千尋‥‥‥動かないで」

「え?」

なに? と思う間もなく‥‥口のすぐ近くに、そっとやわらかいものが押し当てられる。

「慌てて食べるからだよ、千尋。まだあるんだからそんなに慌てなくても大丈夫だよ」

さっき食べたご飯粒だ、と気がついた時には、すでにハクは離れていた。

「―――――千尋?」

「ぁ、う、うんっ! お、おにぎり、おいしいから、つい!!!!」

千尋はおにぎりをひったくるようにして、ハクから視線を逸らしつつ真っ赤になっておにぎりにぱくついた。





油屋に戻り、ハクと別れて部屋に戻って来ても、まだ皆眠っていた。

後数時間はまだ睡眠がとれるだろう。

千尋は水干を脱いで再び布団の中に潜り込んだ。

「どーだったよ、デートは」

突然リンから話しかけられて、千尋は起きあがりそうになった。

「り、リンさん‥‥?」

「ハクも可愛い顔して結構大胆だよなぁ。昼だったら湯婆婆もいねェし、見とがめられねぇもんなー」

「そ、そんな、デートなんて‥‥」

リンはくすくすと笑った。

「楽しかったですって顔に書いてあるぜ、千」

そのとたん、千尋はかぁぁぁっと赤くなった。

「も、もう知らないっ」

がばっと布団を頭からかぶり、潜り込む。

「ははは、もうちっと時間あるからたっぷり休んどけよ。今日もまたしんどい仕事が始まるんだからな」

布団の上から千尋を軽く叩き、リンは再び布団の中に戻った。




夜になれば、再び仕事が始まる。

それまでは、夢を見よう。

二人でみたあの光景と

彼のぬくもりを もう一度―――――――






END

1500HITのキリ番作品です。「千尋とハクのほのぼのなのを」というリクエストで書いてみました。二人して歩いたり走ったりしてるトコは確かにほのぼのな気もしますがその後は果たしてどうでしょうか(笑)。
千尋のごはんつぶをハクがどうやってとったかはご想像にお任せします(笑)。




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