お色気大作戦
その1
33333HIT キリ番作品
「なんて顔してんだ、千」 女部屋に面する窓ぎわで。 手すりにもたれてムスッとした顔をしている千尋に、リンが話しかけて来た。 「‥‥言われなくってもわかるでしょ」 「わかっけどな。でもまぁ一応」 意地悪い先輩に、千尋はますますむすっとして、手すりに顎を乗せた。 「‥‥ねーリンさぁん‥‥なんかいい方法ないかなぁ」 「んぁ?」 がばっと身を起こし、リンに向き直る。 「ハクに何とか対抗したいのっ。いい方法ない!?」 リンはんー‥‥と手すりにもたれ、空を仰いだ。 「んー‥‥ないでもないけど」 「なにっ?」 リンは千尋の耳に口をよせて、ひそひそと話をしはじめた。 「‥‥ええええー!!!」 「でも今までやった事ねぇだろ? やってみるのもイイかもしれないと思わないか?」 「うー‥‥‥」 「ぎゃふんと言わせるイイチャンスかも」 しばらく迷って。 「‥‥‥やる」 千尋はこっくりと頷いたのだった。 当然、今日も仕事はある。 湯屋油屋に休みの日はない。 忙しくぱたぱたと走り回る従業員の中、ハクはふっとその中の一人に目を向けた。 「――――千尋」 声をかけた少女――――千尋の視線がハクに向けられ、反射的なのかその顔が微笑みに彩られる。 その何気ない仕草が愛しい。 仕事中でなければそのままお持ち帰りしたいくらいだ。 「ハク、様」 ハク、と呼びかけて慌てて「様」をつけたためか、妙なイントネーションになっている。 それすらもハクにとっては自分の中の情を沸き立たせる要因の一つにしかならない。 「ご苦労様。体の具合はどう?」 その言葉に千尋はぼんっ、と赤くなった。 ――――この反応が可愛くてたまらないのだ。 わかっててやっているのだが。 「お、おかげさまで‥‥‥だいぶ慣れました」 ‥‥‥おや? 顔を赤らめつつも、いつもと返ってくる反応が違う。 ハクは少し眉をひそめた。 「慣れたって‥‥どんな風に?」 少し様子を見ようとハクは千尋に近づいて、髪を撫でる。 ぴくっ‥と体を震わせ、やや逃げ腰になるのはいつものとおり。 体の反応はいつも通りなのだが――――― 「そ、そんな事を女の口から言わせる気?」 ‥‥言葉はいつもと違う。 「じゃ、私の口から言ってもいい訳だね?」 耳元で垂らしている髪をそっとかきあげて耳元で囁く。 「‥‥今は、仕事中だからダメ」 そのハクの手を千尋はそっと押し戻した。 やっぱり、言葉が違う。 誰かが千尋に入れ知恵をしたな? ハクは唇の端をふっ‥と笑みの形にゆがめた。 「では、仕事が終わった後を楽しみにしてるよ‥‥千尋」 耳元に唇を寄せ、そっと囁く。 耳たぶをそっと甘噛みすると、さすがに千尋は「ひゃぁっ」と悲鳴をあげた。 いつもの千尋の反応にちょっと満足して、ハクはそのまますたすたと歩いていく。 それを、千尋は耳を押さえ、へなへなとへたり込んで見送ったのだった。 |