招かれざる客たち
その1


270000キリ番作品







きーんこーんかーんこーん……


放課後を告げるチャイムが鳴り響くと、学校はざわめきに包まれる。

「千尋ー、もう帰っちゃうの!?」

カバンをひっつかんで走っていく千尋を、友人の麻衣子が呼び止める。

「忙しいのよ、また明日ね!」

どぴゅーん、と擬音がつきそうな勢いで走り去っていった千尋を、麻衣子はただ見送るしか出来ない。

「毎日何してるんだろ……」

「どうしたんだ、斉藤」

級友の1人である藤野覚(ふじのさとる)に話しかけられ、麻衣子は思っていた事を覚に告げた。

「荻野……そういえば放課後に残ってた事って数える程しかないなぁ」

「でしょ?」

「なになに〜〜? ちーちゃんの話?」

同じく級友の1人、望月雪奈(もちづきゆきな)も話に加わってくる。

「荻野が何処に消えるのかって話」

「あ〜雪奈も思ってた! ちーちゃん、何処にいっちゃうんだろうねぇ。バイトかな?」

「でもウチの学校バイトは禁止だよ?」

「じゃなかったら彼氏とか……?」

3人はうーん、と考え込んだ。

「……じゃ後をつけたらどうだろ? 良い考え!」

雪奈の意見に麻衣子と覚は顔を見合わせた。

「………それしかないか」

「そうね……明日、つけてみようか……」

こうして作戦は綿密にねられ始めたのであった。








そうして次の日。

きーんこーんかーんこーん。

放課後は再びやってきた。



やはりあわただしく走って去っていく千尋の姿はいつものもの。

だが、その後をつけていく3人の姿が、いつもと違うものであった。

「見失わないでよ」

「雪奈、あんまり前に出ると見つかるわよ」

「二人とも遅いぞ、早くしないと荻野を見失う」

そんな事をぶつぶつ言いながら追っかけるのは、麻衣子、雪奈、覚の3人。

てっきり繁華街の方へと向かうと思っていた千尋は、街から外れた山の方向へと歩いていく。

「こっちって千尋の家の方向よね?」

何度か千尋の家に遊びに行った事がある麻衣子が首を傾げる。

「やっぱ真っ直ぐ家に帰ってるのかなぁ……」

「しっ」

覚が二人を制する。

そのまま住宅街へと向かうかに見えた千尋は、その一本手前の細い道へと入っていった。

「あっちって、山があるだけよ?」

「何をしに向かってるんだ……?」

辺りは段々と木が生い茂って薄暗くなってくる。

恐がりの雪奈は麻衣子にべったりとくっついて離れようとしない。

「……ううう、ちーちゃん、何処に行くんだろう……怖いよぉ」

「しっかりしろよ、望月」

「だってぇ……」

「ね、あれは何?」

麻衣子の言葉に覚と雪奈はそっちの方を見た。



そこはちょうど広場のようになっていて、苔むした丸い石像が立っている。

その向こうに赤い屋根のついたトンネルがそびえ立っていた。



「……不気味……」

「他に道はなかった……って事は、荻野はここに入っていったって事だな」

「ええええ、入るのぉ!? 雪奈、いやよぉ」

「でもここまで来て引き下がるのも何でしょ。……行くわよ」

麻衣子が雪奈の腕をふりほどいて歩き出す。

それに覚も続いた。

「えええ、覚ちゃんも行くのぉっ!?」

後に残された雪奈は、暫く考えて――――

「やだやだ、雪奈も行く!!」

追いつこうと慌てて走りより、麻衣子の腕にしがみついた。

「ただ暗いだけよ、恐がりね雪奈は」

「雪奈は暗いとこがキライなの!」

そんな事を話しながら歩いていくうち、三人は駅の待合室のような場所に出た。

「何処だろう、ここ……」

「あ、あっちから出られるみたいだよ、行ってみよ?」

灯りが見えた事で俄然元気になった雪奈が麻衣子の手を離して走っていく。

「現金なヤツ」

覚が苦笑しながら呟くと、麻衣子はそれに頷きで同意を返した。





外は、何処までも続く草原だった。

「うわー……こんな場所があったなんて」

「山を越えたのかな、あのトンネルをくぐってるうちに……」

今自分たちが出て来たのは時計台。

―――妙な威圧感がある、大きい時計台だった。

「……この向こうに、きっと千尋がいるんだわ」

時計台を暫く見つめていた麻衣子は、自分自身の言葉で何とか意識を時計台から引き離した。

「さ、行こう。あんまり遅くなったら帰るの遅くなっちゃう」

「うん、そうだね」

「行こう」

三人は時計台を後にして歩き出した。








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