Only One
3
6000HIT キリ番作品
本気ならなおまずい。 千尋が思ったのはまずそれだった。 確かにハクの事は好き。 誰よりも好きで、ハクが好きなのも自分だけでいて欲しい。 とは思うが。 だからといってそれ以上に進むかどうかというのはまた別問題だ。 それなりの準備はいるし、何よりまだ自分に心の準備が整ってない。 ようするに、ハクを受け入れるにはまだ千尋は子供すぎるのであった。 ハクがぶつけてくる愛情に、喜びよりもまずとまどいのほうが先にたってしまう。 「‥‥千尋‥‥愛している」 トン‥と千尋を壁に押しつけ耳元で熱っぽく囁かれると、千尋の心とは関係なく体が震える。 抗う事が出来ず、千尋はぎゅっと目を閉じた。 こんなのやだ。 こんなの こんなの私が望んだことじゃない。 千尋の首筋をたどっていた指が、ふっと止まった。 「‥‥‥千尋‥‥‥」 ハクの声が違うのに気づき、千尋は目を開けた。 そのとたん――――涙がこぼれ落ちる。 微かに溜息が聞こえ――――すっとハクの手が離れた。 「‥‥ハク?」 ハクは千尋から身を離すと離れたところに座った。 「ごめん。‥‥どうかしてた」 もう何もしないから――――と弱々しく微笑んで、ハクは千尋から視線を逸らす。 暫くドキドキと高鳴る胸を抑えたまま呆然と立っていた千尋は、突然思いだしたように轟いた雷に飛び上がった。 「きゃあっ!」 「大丈夫‥‥‥向こうが明るくなって来てる。もうやむよ」 千尋はその場に座り込むと、おずおずとハクに四つん這いになって近づいた。 「ハク‥‥‥」 かなり近づいてもハクは千尋を見ようとしない。 千尋の態度がハクを傷つけたのは火を見るよりも明らかだ。 「ハク‥‥‥あの‥‥わたし‥‥」 ハクがこっちを見てくれない。 そのとたん、さっきまで感じていた怖さとかそういうのもすべて何処かへ吹っ飛んでしまった。 「ハク‥‥‥こっち見て‥‥ねぇ‥‥」 泣きそうな千尋の声に、ハクが口を開きかけた瞬間。 ド――――――――ン!!!! すぐ近くの木に雷が落ちたらしく、洞窟が揺れ凄まじい音が響いた。 「きゃ―――――――っっっ!!!!」 千尋は悲鳴をあげてハクにしがみついた。 「ち、千尋っ」 「こわいっ、こわいこわいこわいこわいこわいこわいぃぃぃぃ‥‥‥!!」 しがみついてぶるぶると震える千尋を引き剥がそうとするが、千尋の力が強く引き離せない。 「大丈夫だよ千尋‥‥‥」 優しくぽんぽんと背中を叩くと、千尋は少し腕の力を抜いた。 その隙に腕を外そうとすると、また力を込めて来る。 「やだっ! 離しちゃやだ‥‥離さないでっ! お願いだから、こうしててっ‥‥!!」 より強くしがみついて来る千尋に、ハクはさっきよりも長い溜息をついた。 自分の愛情を受け入れるには、千尋はまだ幼い。 それまでは、自分が我慢するしかないらしい。 それを悟って、ハクは苦笑するしかなかった。 「大丈夫‥‥‥こうしてるから。安心しなさい」 優しく抱きしめて背中を撫でる。 「離しちゃやだっ‥‥こわい、こわいっ‥‥ハクぅぅっ‥‥!」 「‥‥ずっと、こうしていても、いいのか?」 先ほどの拒絶を思いだしてハクがそう訊ねると、千尋はこくこくと頷いた。 「いいのっ。いいから‥‥だからっ‥‥」 再び鳴る雷に千尋の体がびくんっと硬直する。 さっきまであんなに触れられるのをいやがっていたのに。 ハクが千尋の背中を優しく撫でると、少しずつ彼女の体から力が抜けてきて、安心したようにハクにもたれかかってくる。 そのわかりやすい彼女の反応に、ハクはほんの少しだけ安堵した。 まだ、嫌われた訳ではないらしい。 ――――今はそれでもいい。 少なくとも、千尋のそばにいられればそれで――――― 半時もすると、さっきまでの豪雨が嘘のように空は青く晴れ渡っていた。 「うわー、きれーい。さっきまでの雨が嘘みたい」 千尋は空を見上げ、うーんと大きくのびをしている。 何とか乾いた服を着込み、ハクは千尋の後ろに立った。 「‥‥‥千尋」 「ん? なに?」 千尋が束ねた髪をふんわりとなびかせて振り返る。 「私のこと‥‥好きか?」 おずおずと訊ねるハクに、千尋は満面の笑みを返した。 「うん。大好き!」 その「好き」の意味の微妙な差が埋まるまでには、まだまだ時間が必要そうだった。 END |
ダークで余裕のないハクを、という事で、今回は敢えてブラックではなくちょっとオトナなハクにしてみました。そういう展開を期待された方残念でした(笑)。一応は全年齢対象なので、そういう雰囲気を醸し出しつつというのに苦労しました(ちょっと気を抜くとそっちの方面に走りそうで(爆))。しかし、ハク‥‥生殺し状態かもしれませんね(笑)。頑張れ。千尋をモノにするのは君だ!!(笑) |