Only One

6000HIT キリ番作品





雨は見る間に豪雨になった。

洞窟にたどり着くまでにずぶぬれになってしまった二人は、雨の当たらない場所にやってきてはぁ、と溜息をついた。

「うわー、濡れちゃったねぇ」

千尋はスカートをぱたぱたとはたいて水気をとばしているが、その髪から滴が垂れている。

「上着だけでも脱いだほうがいい。少ししたらたぶんやむと思うから」

「うん‥‥」

と言いかけた千尋はハクのほうに視線を向けて、慌てて視線を逸らした。




ハクは見る間に上をすべて脱いでしまっていた。

思っていた以上にたくましい上半身をばっちり見てしまい、顔が赤くなる。

うわぁ。

うわぁ。

胸がドキドキする。



「千尋?」

背を向けてしまった千尋に、ハクが声をかける。

「う、ううんっ。大丈夫っ。だからっ」

あまりにもドキドキしてしまい、声がうわずってしまう。


するっ‥と衣擦れの音がする。

その音が響くたびに、心臓がどきんとはねた。


「千尋の服もかけるから、貸して」

「あっ、わ、わかったっ‥‥」

上着を脱いで、背を向けたままハクに渡す。

幸い、上着さえ脱いでしまえば下のシャツは殆ど濡れていないのでそう寒くはない。

「‥‥千尋?」


うぁああああ、恥ずかしいよぉぉっ!!


という千尋の心の声が聞こえたのかいないのか、ハクは少し躊躇ってからそっと千尋の髪に指を触れさせた。


びくんっ、と千尋の体が震える。

「千尋」

くるん、と振り向かされる。

目の前にハクがいる。

それだけでかぁぁぁっと千尋は真っ赤になった。





ざぁぁぁぁ‥‥という雨の音と

自分の心臓の音が聞こえる

私の心臓、壊れそう!

落ち着こうと深呼吸したくても、出来ない。



髪を撫でていた指が頬にかかる。

千尋はきゅっと目を閉じた。

が、目を閉じた分ハクの指をより敏感に感じるようになってしまい、ますます心臓がばくばく言い始める。




ハクの空いていた手が、千尋の肩にかかる。

そこで千尋の忍耐は限界に達した。

「ま、ま、ま、ま、ま、待って!!! 待って、ハクっっっ」

目を開けて慌ててハクの手をつかみ、彼を押し戻そうとする。

「なに?」

優しい声で訊ねるハクの瞳がなんだかいつもと違う気がして、千尋はごくっと息を呑んだ。

「そ、その‥‥」

何となく、ハクが怖い気がする。

いつもと変わらず、優しい声なのに。

怖い。

次の言葉を考えていた千尋は、すぐ近くに吐息を感じてひゃぁっと声を上げた。

「は、ハクっ。近づきすぎっっっ!」

「いつもこのくらいは近づいてるよ?」

絶対に、おかしい!

「ど、どうしたの? 何か、あったの?」

ハクから逃げようとじりじりと後ずさる。

千尋の本能が「今のハクはヤバいぞ」と告げている。

が。

ハクが千尋の腰に手を回して自分のほうにぐっと引き寄せてしまった為に、千尋の行動は無と消えた。

「千尋‥‥‥私が、嫌いか?」

苦しそうな表情で、切なげに言われて千尋に否定が出来る筈もない。

ハクは好き。

だけど今のハクは怖い。

でもハクにそんな事言ったら、嫌われる。

千尋の胸はそんな思いでぐちゃぐちゃになっていた。




「すき‥‥だけど‥‥でも‥‥」

ハクの瞳を見つめつつ、千尋はごにょごにょと呟く。

「でも?」

ハクは腰に回した腕に力を込めて、千尋の耳元で囁くように続きを促した。

それだけで千尋は腰くだけになりそうになり、完全にハクに体重を預けてしまった。

自分にもたれかかってきた千尋を抱きかかえ、ハクは千尋に言葉の続きを促す。

「でも‥‥なに?」

ハクの体温を直に感じ、千尋はそれどころではなかった。

動揺をハクに知られないようにとただぎゅっと口をつぐんで耐えるしか出来ない。

「千尋‥‥‥言って。でないと‥‥」

ハクの指がそっと千尋のうなじを撫でる。

「ひゃっっっっっ!!」

自分でもあまりにも色気がないと思いつつ、千尋は変な声を出してのけぞった。

「‥‥私は自分がおさえられなくなる」

指がすっとうなじから首筋を撫で、顎を通って唇に触れる。

言えなくしているのは一体だれよっ。

という言葉を紡ぎたくても、ハクが与えてくる刺激に耐えるのに千尋は精一杯だ。

「‥‥千尋‥‥‥」

指では飽き足らなくなったのか、ハクはそっと千尋の頬に唇を触れさせた。

「っ‥‥」

その唇の感触がじょじょに首筋に移っていくのを感じ、千尋はついにじたばたと暴れ始めた。

「ハクっ‥‥悪ふざけもいい加減にっ‥‥」

「悪ふざけなんかじゃない」

ぴしゃりと否定されて、千尋は息を呑んでハクを見つめた。

「‥‥私は、本気だ」





BACK           NEXT