Ring・Ring・Ring
その1
8989HIT キリ番作品
「リンさーん!! まだぁ?」 「うっさいな、ちょっと待ってなって!」 千尋が玄関でそわそわしながらリンを呼んでいる。 しかし「待っていろ」と言ったリンは、暫くたってもまだ来ない。 もう30分くらい玄関で待ちぼうけを食らわされている千尋は、苛々した様子で足踏みを始めた。 「リンさんてばー!! もう30分たつよー!」 「ああもう、わかってるって! うっさいなぁ!」 ようやく現れたリンが草履を履いて現れる。 「よしっ。んじゃ行くぞ!」 「はーいっ! きゃ〜〜楽しみだなぁ!」 いつになく浮かれた様子のリンと千尋が玄関を出ようとしたまさにその時。 「二人で何処にお出かけだい?」 低い声に千尋がぎくっと足を止める。 リンの方は苦笑するしかない。 「ちょっと野暮用でね。アンタは留守番だよ」 振り返らずにリンはそう言い捨てて歩いて行こうとする。 そのリンの髪をかすめて、シュン‥と風が舞い起こった。 「‥‥‥おまえなぁ。女の髪は命より大事って事、知らないんじゃないか?」 リンが振り返ると、玄関に異様な雰囲気を醸し出したハクが仁王立ちになっているのが見えた。 「あ、あ、あのねっ! あのねっ!! 違うの、そうじゃないの!!!」 千尋の方が狼狽してハクにわたわたと言い訳をしていたりする。 話は今日の朝にさかのぼる。 今日一日は久しぶりの油屋の休みの日。 従業員たちも今日一日は外に出て遊びに出かけても良い事になっている。 そしてお給料もわずかながらもいただけた。 ちょっぴり懐が温かくなったリンと千尋は、二人で買い物に出かけようという事になったのだ。 買い物をするならばやはり女同士がいい。 リンは新しい櫛や化粧道具が欲しかったし、千尋はこちらでしか手に入らないようなアクセサリに興味があった。 そして今日は一日かけて買い物をしようということになったのだが。 「ハクもつれてこうよ」 と千尋が切り出すと、リンはいきなり大笑いを始めた。 「アンタ、ハクを荷物持ちに使うほど買い込む気かぃ?」 「え、いやそんなには‥‥」 「だったら買い物に男はいらないさ。暇にさせるだけだし、女同士の方が気心知れてると思うけど? そりゃーあんだけ執拗にされても変な事されても気にならないほど好きなのはわかってっけどね?」 「り、り、リンさんっ!!」 千尋の頬が真っ赤になる。 それを見てリンはまた大笑いし始めた。 リンはひとしきり笑って 「まぁ、今回ばかりはハクはつれてかない方が無難だね。オレぁそう思うよ」 という言葉に従い、千尋はハクには声をかけずに行く事にした。 のだが。 「私の目を盗んで出かけようとは、いい度胸だな」 「そ、そうじゃないの〜〜!」 ハクの誤解を解こうと必死に弁明する千尋の腕を、ハクがぐっと引っ張る。 「きゃっ‥‥!」 そのまま千尋を抱き込み、ハクは耳元で優しく囁いた。 「千尋は、何か欲しいものがあるのか?」 どうやら千尋は耳が敏感らしく、耳元で囁かれると腰砕けになってしまう。 それがバレてからというもの、リンにも耳に息を吹きかけられてきゃーきゃー笑い転げたりしているのだが、ハクにこうされるとくすぐったいようなむずがゆいような変な気分になる。 「やっ‥‥ほ、欲しいものって‥‥あ、あるかわかんないから見に行くのっ‥‥」 「お金は?」 「ち、ちょっとならあるよっ‥‥」 「本当に?」 と言われると、そんなにはない。 まだまだ下っ端の千尋がもらえるお給料など、たかがしれているのだ。 「ついていこう。もし足りなかったら少しは出してあげられるよ」 「ほんとっ!?」 思わずハクに飛びついてから、千尋は「しまった」と心の中で思った。 ハクが見返りを求めない筈がない。 「よし、なら行こう」 が、とりあえずここでは要求するつもりはないらしく、ハクはとたんに機嫌をなおして用意してあった草履を履いた。 リンが向こうで「ばーか」と呟いているのがわかる。 千尋はそれに反論する事は出来なかった。 |