Sherman
その1


200000キリ番作品







「お疲れさま〜〜」

「先あがりまーす」

千尋はそう挨拶をしてから、女部屋に戻る為に階段を登っていた。

「はー、今日も疲れたなぁ………」

そう言いつつ女部屋の障子を開けた千尋は、ぎょっとして立ち止まった。

なかに、見知らぬ女がいる。

巫女装束の美しい女性である――――が、千尋の知り合いではない。

「あ、あのぅ………どちらさまでしょう?」

「そなたが、荻野千尋と申す娘御ですか?」

逆に問われて、千尋はつい「はい」と頷いてしまっていた。

「ならば良かった」

女性はそう言うとすっ…と立ち上がった。

立ち上がると、結構身長があるのが分かる。

少なくともリンくらいはあるだろう。

「妾はそなたのような娘を探していたのです。時間がありません……すぐにでも参りましょう」

「は? 参るって………一体何処へ……」

むんず、と千尋の腕を掴み、女性はにっこりと微笑みを浮かべた。

「すぐに分かります」

次の瞬間、千尋の姿はそこから消え失せていた。

後には何の痕跡も残さず。


――――その後、湯屋が大騒ぎに(誰かのせいで)なったのは言うまでもなかった。
















「一体誰が千尋を連れ去ったのか、あなたなら分かる筈でしょう。この湯屋はあなたの結界によって守られてるんですから!」

とハクが凄むが、湯婆婆は何処ふく風。

「さあね。いくらアタシでも格の違いすぎる者の魔力は感知出来ないからねぇ」

「格が、違いすぎる?」

その湯婆婆の言い回しに、ハクは眉をひそめた。

「アタシはまだ仕事が残ってるんだ……そんな事でいちいち目くじらたてるんじゃないよ。気になるなら勝手にさがしな。さ、出てった出てった」

「オイッ」

「オイッオイッ」

出て行けといわんばかりに頭が体当たりをしかけてくる。

それをぎらっと睨み付けると、頭たちはしゅんと大人しくなってしまった。

「………失礼します」

そのまま部屋の外へと出たハクは、扉の前に立ちつくしていた。

呆然としていた訳ではない。

さっきの湯婆婆の言葉を考えていたのだ。

「………不本意だが、力を借りるか」

そう呟くなり、ハクは身を翻して湯屋の頂上へと登っていった。

そこで龍の姿へと変わり、空へと舞い上がる。


目指すは日本で最も高い山、富士山。

そこに行けば、彼女に高い確率で会える筈なのだ。











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