Sherman
その6


200000キリ番作品






とりあえずはと湯屋へと戻って来たハクは、事の顛末を聞きたがる従業員たちをかき分けて、女部屋へと千尋を運んだ。

「意識を失っているだけだ。少しすれば目を覚ますだろう……後は頼む」

「ああ、分かった。任しときな」

いつもは反目しあうリンだが、千尋の事となれば利害一致で団結する事が出来る。

彼女に千尋の事を頼んでおけば大丈夫だろう。

ハクはきびすを返して女部屋から出て―――階段を下りているところで足を止めた。

「……このようなところまで足を運ばれるとは」

「なに、顛末が気になっての。菊理に会って来たのであろう?」

階段の下で、見上げるようにして咲耶が微笑んでいた。






「そうか……そのような事が」

「まさか、菊理姫が人間の器をもつ神とは思いませんでした………」

顛末を聞いて、咲耶はうぅむ……と声を漏らした。

「わらわも初めて聞くが――――その性質ゆえに、菊理はそのようなさだめを負うているのかもしれぬな」

「性質?」

問い直すハクに「うむ」と頷き、咲耶はその言葉の続きを口にした。

「知っておろう? 菊理がイザナギとイザナミの二人を黄泉比良坂で調停したというのは」

「はい」

「菊理は神であり、人間でもある。それは……あの者が神でも人間でもないという事じゃ。どちらでもない者、そしてどちらでもある者しか神も人間も裁けぬ。そういう事じゃ」

その役目を負うが為に、菊理は死というくびきから解放され―――同時に生という呪いにとらわれている。

「あの者は永遠に、器にとらわれてあの場所に縛られておるのじゃろうな」

もし千尋を渡していたら、千尋があの場所に永遠にとらわれる事になったのだろう。

菊理姫という魂にとって変わられて。

「…………さて」

今まで大人しく座っていた咲耶が突然立ち上がる。

「わらわはそろそろ戻るぞよ。……邪魔なようであるしな?」

「は? 邪魔?」

「ハク――――!!」

あっ、とハクが驚きの声をあげる前に、彼は何かに突進されてぎゅうぎゅうに抱きしめられて動けなくなっていた。

「ち、千尋……? 目が覚めたのかい?」

「ごめんね、ごめんねハクっ。私、リンさんに聞くまでなんにも知らなくってっ……ハクが助けに来てくれたんでしょ? ごめんね、仕事も忙しいのに、心配かけちゃってっ……」

次から次へと謝罪の言葉を口にし力の限りハクを抱きしめる千尋に、ハクは口を挟む余裕もない。

「あ、あの千尋……それは、もう大丈夫だから……」

「ごめんなさい~~~いっつも気をつけろって言われてるのに、私、ぼぅっとしちゃっててっ……だからあんな目にっ……」

「……千尋………と、とりあえず離してくれないかな……」

「ごめんなさい~~~~!!」

ハクの言葉なんぞ聞いてない。

咲耶がくすくすと笑い声をたて、「ごゆっくり」と言葉をのこして去っていく。

ハクが解放されるのは、まだ当分先のようだった。







――――それでも。

今が幸せだと思えるから、それでいい。



ハクはふっ…と唇に笑みを浮かべ、そっと千尋を抱きしめた。







END


大変に遅くなりました~~(><)。お待たせして申し訳ありません。何とか終わりました……物語が壮大になりそうなのをコントロールするのが結構大変だったかも。菊理姫神は色々調べてみましたが……本当に記述の少ない神様でした。人間の身体を持つというのは私の創作なので信じないように(クギ刺し)。



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