真実の名
その1
12345HIT キリ番作品
「ねえねえ」 仕事が終わって部屋に戻りかけていたリンは、千尋に話しかけられて振り返った。 「ん、なんだ?」 「私が湯婆婆に名前を奪われて千になったように、リンさんにもちゃんとホントの名前があるんでしょ? 名前‥‥‥覚えてる?」 リンはいんや、と首を振った。 「覚えてねぇなぁ。つか、湯婆婆に名前とられた時点でもう自分の名前思い出せなくなってるし。ま、だからこの油屋から出られずにいるんだけどな?」 「そう‥‥」 ハクもそうだった。 千尋と出会った時、ハクはすでに自分の名を思い出せなくなっていた。 千尋が思いだした事でハクは名を取り戻し、湯婆婆の呪縛から逃れる事が出来たのだ。 「‥‥そういえば」 リンはふと思いだしたように上を見た。 「名も過去も忘れちまったけど‥‥ずっと持ってるものがあンだ」 「え?」 千尋はわくわくっとした顔でリンを見つめた。 「‥‥見たいか?」 「見たい! 見たい!!」 「よーっし、じゃあ見せてやるよ!」 2人はきゃいきゃいと騒ぎながら、従業員の部屋へと向かって歩いていった。 「ほら」 リンが出したのは、乾燥した花びらみたいなものだった。 ピンク色のような、赤い花びら。 「どうしてこんなの持ってるのかもわかんないんだけどな。でもすごく大切なものだってのは覚えてる‥‥‥何の花なのかもわかんないけど」 「でも、綺麗‥‥‥これが、もしかしたらリンさんの記憶の手がかりになるかもしれないんだよね」 千尋は花びらを手にとってくんくんと香りをかいだ。 「‥‥乾燥しちゃっててわかんないなぁ。薔薇の花びらのような感じもするけど違う気もするし‥‥」 暫く花びらを眺めていた千尋は、リンにずずぃと詰め寄った。 「ねぇ、これ一枚貸してくれない?」 「は?」 「私、学校があるし明日には一端帰るの。また一週間後に来るから、それまでにこれが何の花の花びらなのか調べてくる!」 妙に燃えている千尋を見つめ、リンはただ「お願いします」としか言えなかったのであった。 向こうの世界とこちらの世界との行き来が出来るのは、千尋とハクだけ。 自分の名を取り戻し、なおかつ「働きたい」という意思を持つハクと千尋に、湯婆婆の魔力は効力を発揮しないのだ。 だから。 学校の図書館で調べものをしていた千尋は、すぐ近くにハクが現れても驚きもしなかった。 「――――随分と熱心に調べてるね」 「うん。この花びらの‥‥‥花の名前を調べてるの。もしかしたら、リンさんの過去とかわかるんじゃないかなって思って」 千尋が差し出した濃いピンク色の花びらを受け取り、ハクはそれを光にすかしてみた。 「薔薇に似てるね」 「うん‥‥だから薔薇科の花じゃないかなと思って調べてるんだけど‥‥」 千尋がぺらぺらとめくっている植物図鑑をハクは上から見つめていたが、ふと気がついて千尋がめくろうとしたページに手をおいた。 「え?」 「これ‥‥見て」 ハクの指さす方を千尋は見て――――――花びらとそこに載っている写真とを見比べた。 「‥‥‥これ‥‥!!」 自分を見上げてくる千尋を見つめ、ハクはしっかりと頷いた。 |