真実の名
その2

12345HIT キリ番作品







一週間後。

「ただいま〜〜〜!」

油屋に(アルバイトとして)戻って来た千尋を、従業員たちが出迎える。

「お帰り。またバリバリ働いて貰うよ!」

女中頭に「はーい!」と大きく返事をし、千尋はキョロキョロとあたりを見回した。

「あ!」

リンの姿を見つけ、そこまで走っていく。

「リンさんっ!」

ぴょんと飛びつくと、リンはびっくりしたような声をあげた。

「あ、ああ、千。帰って来たのか。おかえりっ」

「あのね、あのね、話があるの。いい?」

袖を引っ張る千尋に戸惑いを隠せず、リンは首を傾げた。

「なんだよ、もうちょっとしたら仕事の時間だぞ‥‥」

「すぐに終わるから!!」

仕方なさそうに息をつき、リンは千尋について歩いていった。







「‥‥で、なんなんだ?」

従業員たちが忙しく働く廊下から少し奥に入ったところで、千尋は振り返った。

「あのね、最初にこれ返しとく」

千尋が差し出したのは、一週間前に千尋がリンから借りた、あの花びらだった。

「お、さんきゅ。で分かったのか?」

「うん‥‥これ」

次に千尋が差し出したのは―――――――。



リンは目を見張った。



限りなく赤に近い、濃いピンク色の花。

大きく開いた五片の花びらの中央に白い雄しべと雌しべがあって。

微かに毛羽立つような葉が何処からともなく吹いてくる風に揺れている。


「わかる? あの花びらは、花梨の花。―――――もしかして、リンさんの本当の名前って‥‥カリンって言うんじゃない?」



千尋はリンをじっと見つめた。

リンは雷に打たれたように動かない。


やがて


その瞳からつっ‥‥と涙が落ちた。


「リンさん!?」

「‥‥あ‥‥」

リンは袖で涙を拭うと、にこっと笑った。

「悪い。‥‥そう‥‥思いだした。カリン、だ。花梨。オレが生まれた時――――花梨の花が一斉に咲き乱れてて。それでそう名付けられたんだ‥‥」

リンは花梨の花を受け取り、それを愛しそうに見つめた。

「そう‥‥何で忘れてたんだろうな。この花がオレは好きだったのに‥‥」

「忘れてなんかないよ。ただ思い出せなかっただけ」

千尋の言葉にリンは視線を向けた。

「だって、リンさん‥‥この花を大事に持っていたじゃない。忘れてなんかなかったんだよ。ただ‥‥思い出せなかっただけで」

銭婆が千尋に言った言葉。

ただ思い出せないだけ。

だから、千尋は思い出せた。

自分の名前を。

ハクの名前を。

リンも同じ。

「‥‥良かったね、リンさん‥‥ううん。花梨、さん」

リンは千尋の華奢な体を抱きしめていた。







自分の名を取り戻したリンが、湯婆婆との契約を破棄するのにそう時間はかからなかった。




「まぁ、自分ちがどうなってるか、見ておかなきゃなって思うんだよな」

旅支度を調えたリンは、にっこり微笑んだ。

寂しそうな顔をしている千尋のおでこをぴんとはじき、リンは笑った。

「何、しけた顔してんだよ! すぐに戻ってくるさ。‥‥何のかんの言ってオレはここが好きなんだ。コキ使われてばっかの職場だけど‥‥」

やっぱり、ここが一番落ち着く。

リンはそう言って今度は千尋の頭を撫でた。

「じゃあな! 行って来る!!」

「うん! いってらっしゃい!! 待ってるからね!!」

橋を渡り歩き出したリンが、千尋の声に手をあげて応える。

やがて、リンの姿は見えなくなった。




「‥‥行ったか」

背後から聞こえる声に、千尋は振り向かずに「うん」と答えた。

そっと後ろから回される腕に、背中に感じるぬくもりに身を預ける。

「‥‥ハクのおかげだよ。ありがと」

「私は何もしていない。千尋が頑張ったからだよ」

ハクの髪がさら‥‥と千尋の頬に触れる。

千尋はくすぐったそうにしつつも、ハクを振り返った。

「花梨の花、ハクのお部屋に飾っていい? たくさん貰って来たの」

「いいよ。持っておいで。今から飾ろう」

「うん!」



ハクと千尋は、油屋に向かって歩き出した。




END

12345キリ番作品です。リンメインでシリアス、というリクエストだったのですが‥‥何となく違うような?(汗) しかし‥‥このくらいしかネタ思い浮かばなくてっ(号泣)。リンの名前が「花梨」というのはオリジナルです。ホントはどうか知りませんよ〜(汗)。花梨のど飴を見てて思いついたのはヒミツ‥‥‥(爆)。




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